その一
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その一

 正眼に構えた刀が、重みに任せるように、ゆっくりと下りていく。  やがて刀身が、右手から垂れ下がるように、切先が地面に触れた。  柄頭に左手が副えられただけの、力無く抜き身をぶら下げた立ち姿は、構えとも呼べないものであった。    ゆらりと刀を提げ持つ男は、二十の半ば頃で、浪々の身であろうか、着古した着物は旅塵にまみれ、紺染の肩の辺りが焼けてかすんでいる。  それでも、消えかかってはいたが、衣服に折り目が残っているところに、どこか境遇に甘んじぬ矜持が感じられた。  若い牢人は、五尺二寸(一六〇㎝)程の、当時では並みの背丈で、どちらかと言えば、細身の体つきであった。  だが、敏捷さを兼ね備えた筋骨の逞しさは、着物の上からでも、はっきりと見て取れる。  歳に似合わぬ泰然とした雰囲気が、立ち居に漂う。  それでいて、目に、意思の力強さと相俟って、神経質な色が浮かんでいるのが、印象的であった。  若い牢人の視線の先では、六尺(一八〇cm)を超える、襤褸布の様な着物に身を包んだ巨漢が、正眼の構えで対峙し、裂帛の気合をつけていた。  若い牢人とは対称的に、破れかぶれな苛立ちが、荒々しさとなって揺らめき立っている。