人類を愛することは簡単だけど、隣人を愛することは容易ではない。 byフョードル・ドストエフスキー

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人類を愛することは簡単だけど、隣人を愛することは容易ではない。 byフョードル・ドストエフスキー

【う‥うそ‥杉山‥くん‥】 ある一軒家の一室。そのドアから覗かせる異質な光景に、神崎しいなはそれを真実のものとして受け入れられなかった。 彼女にとって、その光景はあまりにも受け入れ難く、また直視出来ないものだった。 321ccc83-de8a-4f21-8ade-3cf92c2debcd 【どうしてーーー】 しいなの視界に映る二人の痴態。まさに彼等だけの空間になっていた。 じゅっぷじゅっぷと、卑猥な肉と肉のぶつかり合う音が一室に響き渡る。 それと共に歓喜に近い女の喘ぎ声が木霊し、形容し難い妖艶さを演出していた。 彼女にとって、今日は特別な記念日だった。 バレンタインデー。 一番の良き理解者であり、自分を大切に思ってくれる想い人のために、ウキウキしながら手作りのチョコレートを彼の家に持っていった。 だがその受取人は、既に他の異性によって思い出を上書きされていた。彼のいつもの優しい面影はなく、獣のように腰を振る姿に変わり果てていた。  そして、その異性の正体はーーーー          ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「おはよー!」 「なんだ、しいなか。今日も遅刻かと思った」 「今日はちゃんと起きたって〜!」 ーーいつもの朝。 何時もの彼のがっしりした背中をはたいて、私は彼に話しかける。 彼は気さくで、転校したばかりで不安だった私に沢山話しかけてくれた。心から信頼できる、いい友達。 友達? 彼、のほうが正しいかなっ。 ふふ。 「おっカップル登場〜!」 「今日も熱いね〜!」 「やめろよー。そんな中じゃないって」 登下校はいつも一緒なので、学校のみんなからは既にカップル扱いだ。このまま、彼と本当に結ばれればいいのにーーー。 学校の退屈な授業も、辛い体育の授業も、彼がいれば耐えられる。 そんな彼とは、いまだ一度もデートにこぎつけたことがない。 彼は私のこと、別になんとも思ってないのかなーーー。 こんなことじゃだめだ。本当に好きだってことを、しっかり伝えなきゃ。 放課後、私は彼を放課後の校舎に呼び出した。 「話ってなんだ?」 「ーあ、あの」 こんなことじゃいけない。伝えるんだ。自分の思いをーーー 「わたし、杉山くんのことがーー」 「分かってたよ」 「ふぇっ?」 「お前が俺のこと好きなの、前から分かってるに決まってるだろ?俺はそんなに鈍感に見えるか?」 「そ、それじゃーー」 「付き合おう」 「ーーー! ‥うっ‥ぐすっ‥ありがとう‥」 「バカだなぁ、泣くこと無いだろ?」 ボロボロの涙でグシャグシャになった私の頬を、彼は持っていたハンカチで優しく拭きとってくれた。こんなときまで、彼の優しさが身に沁みるようで、私は一層彼への思いが強くなったーーー。 「ーーーただいま!」 自宅に帰ってきた私。嬉しさのあまり玄関で脱ぐ靴も乱雑に散らばる。 ベッドにダイブし、これからの彼との生活の妄想で頭がいっぱいになった。 「映画とかディ○ニーとか夏祭りとか一緒に行って、金魚すくいに射的に花火見てー、途中で抜け出しちゃったりして木陰の中で‥きゃー!」 恥ずかしさで枕に顔を埋める。あらゆる妄想が駆け巡る。我ながらなんて気持ちの悪い妄想だろう。 そんなこんなで、今夜はぐっすり眠れそうにない。 「あら、しいな。何かいい事でもあった?」 「うわーーっお姉ちゃん!入ってくるときはノックぐらいしてよぉ」 お姉ちゃんが入ってきた。昔から大の悪戯好きで、いっつも私を驚かせてくる。意表をつくタイミングで話しかけてくるから、全然慣れない。 でも、同じ学校なのに、あまり会うこともないなぁ。なんでだろう?あたしより一つ上の学年だから、そこまで会う機会無いわけでもないのに、不思議だなぁ。 「あ、お姉ちゃんに隠し事は通用しないよ〜。彼氏出来たんでしょ、カ・レ・シ♪」 「もー、そんなんじゃないって〜!!」 「どんな彼氏なの?お姉ちゃんだけに教えてよ。お姉ちゃんだ・け・に♪」 「仕方ないな〜。ゴニョゴニョ‥」 「えーっ!C組の杉山くん!?やったじゃない!彼の好きな鮭のムニエル、今度ご馳走してあげなさいね」 「えっ‥なんでそんなこと知ってるの」 「あっ‥いやいや、想像よ想像!適当に言ったに決まってるじゃない。」 8504dc8a-4917-469e-8999-6abf75d5c69b おかしい。確かに私は料理が得意だし、作ろうと思えばムニエルくらい簡単に作れる。 でも、適当に嘘をついたにしても何か不自然だ。なんで具体的に彼の好物を把握してるんだろう。  「‥もー!びっくりしたじゃない!」 ーー考え過ぎか。それより、今後の予定を組まなくちゃーー 私は流行る気持ちを抑えながら、ワクワクを手帳の予定に書き染めたーーー。 そういえばもう少しでバレンタイン。 告白しちゃった今ではもう本命とか義理とか関係ないけど、一応行事だし、やることはやっとかないと! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー バレンタイン当日。 カレンダーの暦では日曜日になっていた。 サプライズで彼に持っていってあげたら、きっと喜ぶだろうなぁー。 お姉ちゃんも出掛けてて居ないし、邪魔も入らない。 流行る気持ちを片手に、今朝早起きして作ったチョコレートの型抜きを終わらせ、丁寧にラッピングして鞄に詰める。 るんるん♪ いつになく軽い足取りで、私は彼の家に向かった。彼の家には数回お邪魔したことがあるが、男の人の家にしてはわりかし綺麗に片付いている方だと思う。 ピンポーン。 インターホンを鳴らす。 応答がない。 「おっかしいなぁ‥」 いつもならこの時間帯にはいる筈。 二階の明かりもついてるし、出ないはずがない。 「おじゃましまーす?」 玄関は真っ暗。二階へと続く階段に、仄かな光が指している。 (もぅ。杉山くんったら、私を無視して何やってるんだろう?) ギィギィと音がする立て付けの悪そうな階段を、少しずつ登っていく。 ま、いっか。どうせサプライズで驚かしてやるんだから。 二階。少しだけドアが開いている。 真っ暗な廊下に煌々と光る明かりに、そろりそろりと向かっていく。 そこで、私は誰かの話し声を聞いた。 「‥じゃない」 え? 聞き覚えのある声に、思わず私は耳を傾ける。 「そんな、いくら兄弟だからって、やっぱりこんなのおかしいですよ」 「なによ今更~。ほんのちょっとだけなんだから。それに、しいなだって貴方がいざという時にきちんと立たないと、可哀想じゃない?姉として、貴方のサポートをしっかりとしてあげたいの。ほんの予行練習だと思えばいいの。これは、エッチじゃなくて、れ・ん・し・ゅ・う♥」  !!!! ドアの隙間から覗き込んだ先に映っていたのは、紛れもない、私のお姉ちゃんだったのだ。 「それにほら、杉山くんのココ、こんなに硬くなってるじゃない♪やっぱり男の子なんだ♪」 「くっ‥かおりさんがさっきからいやらしく僕を誘惑するからじゃないですか」 「なぁに?満更でもなさそうな表情しちゃって。すっかりその気じゃない。男の子らしいところ、みせてよ・・・ほら・・」クチャア 「!!かおりさんっ!」 その光景を目にしてから、彼の男としての本能にスイッチが入るまで時間はかからなかった。 じゅぷんっ! 「ああっ!やっぱり・・・杉山くんの・・・おっきぃ・・・・♡」 e7fc37e5-14d5-4190-bdaf-518ff042d262 ーーー。 私は暫く現実を直視出来なかった。 あのお姉ちゃんが、杉山くんとセックスしているーーー 「んっ・・・あたしに告白してきた時から、変わったよね…」 え? どういうこと?お姉ちゃんにも告白って、それってどういうーー 「ウブで女の子と目も合わせられなかったくせに・・・一度あたしが女の味を教えた途端、よく呼びつけるようになったよね」 「都合のいい関係・・・って言ったらあれだけど・・んっ・・・・いくらあたしが持ち掛けたからって、女の子の身体はデリケートなんだからっ・・・少しは気をつけない・・っと・・・ちょっ、ちょっとっんんっ♡」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ギシギシと一心不乱にそそり立つものを出し入れする光景が見える。 あ、あはははは。 夢中で腰を振る彼の姿に、私は全ての希望が途切れた気がしたーーーー これからの彼とのデート。甘酸っぱい高校生活の青春を、二人で噛みしめるつもりだった。 沢山の希望が詰まった未来。これからいっぱい喧嘩もして、それでも仲直りして、お互いの中を深め合うーーー そんな私達の未来を、私のお姉ちゃんーーー ‥いや、かおりがすべて奪い去っていった。 私の未来には、もう澄んだ青春など存在しない。 黒ずんだ感情の行き場を、私はどこにぶつけたらいいんだろうーーー。  
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