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一
ギリギリと、傘が動く音がする。
南国の孤島だもの、遠くの土地のお方から届けられれば、古びているのもおかしくないわ。それとも、これが[傘]なるもののあるべきかたちなのかしら。
青空に傘を向けると、まるで不恰好な剣を翳しているように思えた。
なんなのでしょう、使い方がわからないと、眉をしかめてしまうわね。説明書のようなものは見当たらないし、どういった道具なのか見当もつかない。動物の尾のような形をしている先っちょだし、もう片方のはしっこは動物の角のようだわ。
巻きついた透明な布を引っ張ってみると、今まで感じたことのない触り心地がした。
不思議だわ、指が滑ってしまう。透き通っているし、つるつるしているし、もしかして布ではないのかしら。だとしたら、いったいなんなのでしょう。
カーブしているはしっこの方のでっぱりを押すと、バッと傘が開いた。
驚いた。コウモリが飛ぶときの羽の様子そのものね。急に大きくなるもんだから、落っことしたじゃないの。それにしても、綺麗な模様の羽ね。
地面に落下したそれを拾って、頭の上まで持ち上げてみた。そして、そのまま顔を上に向けた。
しばらく動けなかった。
綺麗な景色だった。
そこだけの景色だった。
広い広い景色だった。
初めて傘を使い、空を見た。
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