タピオカミルクティー

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「いや、もういいよ。それ。」 わたしはドアを閉めて、アパートの階段を降りた。ふらふらとした足取りで駅の方へ向かっていると、辺りが静かなことに気づく。スマートフォンのロック画面を見ると、そこには3:21の文字が浮かび上がっていた。 朝の3時。自分の家までは電車で20分。歩くと、ああ、とりあえず嫌だなってことだけはわかる。でも、今はアイツの家へ戻りたくはない。朝までどう過ごすか考えながら大きめの道を歩いていると、イートインスペースのあるコンビニを見つけた。 「…らっしゃいせ…」 店内には、やる気が感じられない夜勤バイトの青年と、イートインスペースに一人金髪の男性がいる。わたしはタピオカミルクティーを手に取り、レジに通して、イートインスペースへと向かった。 「雅さん?」 金髪の男性に声をかけられた。よく見ると、見覚えのある顔だ 彼は、さっきまでわたしと一緒にいた瀧田亮のバンドでベースを担当している恭太くんだ。恭太くんは色白金髪、細身の長身という「バンドを追っかけるサブカル女」の理想のような人で、今日もダボダボでテロテロのTシャツに黒いスキニーでサブカル女を殺そうとしている。 「ねえ、バンドマンって絶対女癖悪いの?」 「亮くんですか」 「亮くんですよお」 亮くんはライブハウスでバイトをしていた時に知り合ったわたしの彼氏、と言っていいのかよくわからない男だ。バンドでボーカルをしていて、ハイトーンボイスでひょろひょろで、身長はわたしくらいしかない。 タピオカミルクティーのストローを蓋に思いっきり刺した。一気に吸うとやる気のないタピオカが口へ入ってくる。 「なんかコンビニのタピオカって亮くんみたいで腹立つ」 「あーへにょへにょした感じっすか」 「そう。亮くんまた知らない女と連絡取ってた。謝るんだよね。ごめん、俺には雅が一番だよ、行かないでって高いへにょへにょした声で言う。でも、それって多分誰にでも言ってるし。第一わたしって亮くんの彼女だって思われてるのかな、ってなったらもーいーよ!ってなって出てきちゃった」 「あー、でも亮くんの声って普段へにょへにょしてんのに歌うとかっこいいっすよねえ」 「そうなんだよねえ」 わたしはまたタピオカミルクティーを吸った。甘すぎるくらいのミルクティーと主にポンポンとまたタピオカが入ってくる。 「残念ながら、バンドマンは女癖悪いっすよ。俺含めて」 「もしかして、恭太くん、女に追い出されてここにいる?」 「察しがいいですね」 わたしに向かって軽く笑いかけた。 「午前三時にコンビニのイートインスペースで時間潰すやつなんて極論そんな感じじゃない?」 「俺は浮気バレて追い出された側っすけどね。バンドマンって駄目な生き物っすよ、まじで。好きになる女の気が知れねえ」 「同感」 「亮くん、雅さんのこと探しに来ないかな」 「来ないよ。あの人は三時に電車が動いてないってことまで想像出来てないし、忘れて違う女呼びつけるんだよ。で、女がタクシーで来て、あれ、タクシーで来たんだあってまたへにょへにょ言いやがるの!腹立つわあ」 「経験者ですね?」 「残念ながら」 タピオカをまた吸うとズズズ、と終わりの音がした。わたしは瀧田亮とのメッセージ履歴を見返しながら、日が差し込むのを待った。
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