プロローグ

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プロローグ

薄汚れた部屋の中でまた今日も僕たちは目を覚ました。 朝食を取りながらニュースをザッピングする。 どうやら、世界は相も変わらず危険な日常をすごしているようだ。 そして、双子の片割れが髪をとかし化粧をする中僕は荷造りをしている。 苺のショートケーキ。 今日の片割れの姉弟はそんなものを連想させるような姿だった。 ふんだんにレースを使ったクリームの様な白いワンピース、リボンとレースで縁取られたオーバーニーソックスに先の丸まった白い靴、ピンクの髪はまるで苺、その頭に着けているのもピンクのリボンのついた兎耳。 たしか、白ロリだったかな? あまり少女趣味な服には詳しくないが、僕は心の中でそうつぶやいた。 僕はというとダークスーツに黒のネクタイ、まるで葬儀屋か何かだ。 まあ、荷物を詰めているのも黒い棺型の旅行鞄なのだが。 「レイヴン、荷造り終わった?」 「そういうストロベリーはもう終わらせたの?」 「えーと、手伝って!」 「わかったよ」 にしても、ここに潜伏して1年結構物が増えたものだ。 と、言っても家具付き物件だったので僕達の真の意味での所有物は少ない方だと思う。 服に食器類、生活雑貨に日用品、そんな程度だ。 なのに僕の片割れは何を荷造りに困っているのだろう? 「何が入らないの?」 「ロングパニエが入らない……」 パニエ、スカートを膨らませるために必要なこのフワフワのインナーは鞄に詰めるのに結構な労力を要する。 「ストロベリー、ロングスカートなんて滅多に穿かないだろう?捨てていったら?」 「また手に入る?」 「入らなかったら作ればいいだろう?」 「なら、捨てていく」 こうして、荷物の取捨選択をしてやると、やっとストロベリーの鞄はギリギリ閉まった。 「じゃあ、行こうか」 「いきなり捕まったりしない?」 「それは僕らの行動次第。行こう」 「うん」 僕達は、それぞれの荷物を持つと潜伏していた安アパートから逃げ出した。 もう、3年になるか、僕達はマフィアの暗殺者として育てられた。 しかし、ボスに忠誠を誓う儀式の直後に組織は摘発され僕はストロベリーの手を引いて大捕り物の中を逃げ出した。 ストロベリーは最後まで嫌がった、戦うべきだ、そう言ってきかなかった。 でも、僕達は暗殺者、戦闘員じゃないと何度も言い聞かせながらストロベリーを連れて逃亡生活を送っていた。 最初はストロベリーも嫌がっていたが、いつか反撃の時が来る。 そう言い聞かせ僕達は必死に生きた。 所々錆びた階段をトコトコと先に降りていくストロベリーの背中を見ながらとうとう来た反撃の日を考えていた。 「ちょっと!レイヴン、聞いてる!?」 「あー、聞いてなかった。ごめんよ」 ショートケーキみたいな彼女が不満そうに頬を膨らませながら僕を睨んでいた。 「迷子になったって言ったの!」 腰に手を当てたまま彼女は不機嫌そうに言う。 あぁ、ボス。僕はくじけそうです。 天を仰いだ僕の顔に真昼の太陽が眩しかった。
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