序章

1/5
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

序章

 肌がべたつく不快な梅雨模様が続く初夏のある日。定時制高校へ通う糸吉(いとよし)(あきら)十七歳は、この日も午後の授業が終わると、都心から幾分離れた市にあるアルバイト先のファミリーレストランへと制服姿で直行した。    繁華街に隣接している店舗の客層は様々で繁盛している。週末ともなれば、深夜であっても客足が途切れる事はなく、晶の退勤時間が越えてしまう事も珍しくはなかった。    晶は裏口から店の事務所に出勤して自分のタイムカードを押すと、狭いロッカールームでダークブルーの学生服から白と黒を基調にした職場の制服へと着替える。このレストランは男性客を当て込んでいるのか、制服を男性客好みのメイド風に換えてから、地味にではあるが一部の客層に人気を得ているようだった。メイドといっても本物のメイドからはほど遠い、日本独特のアレンジがなされた派手なもので。所謂(いわゆる)オタク趣味の性的アピールが強いものだった。当然、店員も容姿を優先して選ばれている。    比較的時間給のよい求人であることから、応募する者は多いようである。しかし晶ほどの容姿を持った応募者は流石(さすが)に貴重らしく、職場の高待遇も手伝って晶も満足していた。十時以降の深夜労働が出来ない若年者である晶にとっても、相場以上の時給で働けるこの仕事は貴重(きちょう)なのだから。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!