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「………君は自分が人殺しだと、そう言ったね」
再び向かい合う。影の中に立つ少年と、白い影を帯びた少女。
「人殺しの一被害者として、僕は……やはりそうは思わない。君に罪があるとは、言えないと思う。ある意味では君は罪人かもしれない。でも僕は君を人殺し、とは言えない。そう呼んじゃいけないと思うんだ」
溜息が落ちる。
「だから、君の好きに生きていいと、僕はそう思っている。幸せになって欲しい。”彼女”も、そう思っていると、信じている」
澄み切った青い目が、優を見つめる。
「おそらく、この話を聞いたところで、彼女は君を恨みはしないと思う。それよりも、これ以上苦しまないことを望むと」
不意に雨音が途切れた。本心を言い当てられた子どものように、押し黙る。雨は、少し弱くなっていた。
「もちろんその子の死は、不幸な事故、ではないと思う。君の心情も理解できる。……でも君は、やはり”彼”ではない。僕にはわからないけれど、何かが決定的に違うんだ。だから……その重荷を下ろしていいと、僕は思うよ」
……それでも雨は、降り続いている。
「ありがとうございます。……でも僕はこの罪と一生向き合っていこうと思っています。……僕が全く罰を受けないのは、やはり間違っていますから」
微笑を浮かべながらも、彼は引き下がらなかった。悲しげにシャーリーは笑う。少年の決意は固いようだ。ならば何も言うまいと、黙って頷いた。
「……そろそろ、行きましょうか」
俯いた彼が呟く。よくよく見れば既に2時間近くたっている。
「あぁ、もうこんな時間か。ごめんね、長々と。予定、大丈夫?」
「まぁ大丈夫ですよ。ともかくもう、出ましょう」
扉を開ければ、弱まってはいるものの、雨は降り続いている。優が自分の傘をシャーリーに渡す。
「どうぞ。僕はなくても平気ですから」
「でもこれは君のだろう。一緒に入ろう。まだそれなりに降っているのだし、濡れてしまうよ」
「大丈夫です。僕は道はよく知ってます。そんな濡れずに帰れますよ。それに……」
くるり、と振り返って見える、寂しげな笑み。
「雨は穢れを祓うもの、だそうですから。僕には丁度いいんです。……神様も、多分僕を見捨てたのでしょうし」
「えっ……?」
彼は更に、その笑みに寂しさを滲ませた。
「牧師さんがいなかったのは、きっと僕にこの罪は許されないものだ、と告げるためなのでしょう。なら盾を構えては、雨を防いでは、いけませんから」
そう言って一歩踏み出した優の視界が、鮮やかな緑で塞がった。
「なら尚更、雨に打たれる必要はないだろう」
傘を彼に差し出して、シャーリーが言う。
「言ったはずだよ、君に罪はないと。君が苦しむことを、誰も望んでいないと」
シャーリーが優から傘を外す。空を見上げてみれば。降り続いていた雨が止んだ。暗い空から差し込む黄色い光。顔を覗かせる、輝かしい真夏の太陽。
「……もう泣かなくていいって、”彼女”はきっと、君にそう言っているんだよ」
大きく見開かれた少年の目から、雨の残滓が零れた。
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