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一区間の友
「お嬢さん、お加減は大丈夫かな?」
ガタゴトと動き始めて間もない列車の客室。
一見して仕立てたばかりと分かる灰色の背広に同じ色の帽子を被り、ややけばけばしいほど鮮やかな朱色の蝶ネクタイを大きく結んだ、眼鏡に鳶色の髭もじゃの中年男が葉巻を燻らしながら、前の座席の客に声を掛けた。
相手は質の良い黒の喪服とヘアバンドを着け、艶やかなアッシュブロンドの髪を編み込んで垂らした、まだ少女と言って良いほど若い女である。
だが、その澄んだ青灰色の瞳からは透き通った涙の粒が零れ落ちるところだった。
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