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「酔い止めの薬なら少し差し上げますよ」
返事を待たずに中年男は緑と黒のチェック模様の肩掛けを小脇に抱えて少女の向かいの席にせかせかと移動する。
「いえ、大丈夫です」
少女は小声で答えると、ゴホンと咳き込んだ口元を抑えた。
「これは失礼した」
中年男は手にした葉巻から流れ出る白い煙の強い臭いに気が付くと、床に落としてピカピカの革靴で潰す。
「少し換気しよう」
席に面したガラス窓を中程まで開ける。
ひんやりした秋の風と共に線路脇の木々の緑の匂いが流れ込んできた。
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