鉛玉

3/3
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「ねェ、何のイヤガラセ?」 「っ…!」  雨垂れが絶え間なく、長ったらしい廊下の窓の外を走っていた。ザーと言う均一のノイズは一気に増幅して、実像を何倍にも見せる。 「何の…話…」  お手洗いから戻る途中、私の目の前で壁を作るのは広海と渚だった。 「成美のこと」 「とぼけるつもりじゃないよね?」  彼女たちの鍛え抜かれたディフェンスの技術なのか、私の中で怯える心当たりの所為なのか――考えるまでもなく後者だろうが――、ピクンと肩が跳ねたっきり、動けなかった。 「あんな良い子に、随分上から目線であれこれ言ってるらしいじゃん」 「あんた何様のつもりよ?っていうか気づいてる?その態度のせいで、浮いてるってこと」 「正直言ってむかつくんだよね、あんたみたいなの。…よく梓もこれまで我慢したよ」  私は止まった時と共に忘れていたか細い息を、漸く肺に飲み込ませた。  ――点と点が、 「本当。ボランティア精神の塊ぃー」  繋げられることを解っても、震えるこの手がそれをしないで居る。  屈折して、屈折して屈折して鬱折して。速度を充分に育てた最後の鉛筋が、私に戻って、ナカで、絶えて。  チャイムが鳴っていると気が付いたのは、既にその余韻が消える頃だった。  いつの間にか彼女たちの姿は無く、ずっと向こうまで続く廊下に誰も失く、まるで果てし哭く、雨音だけが冗長に啼く、私は立っていられ、ナクなる。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!