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(3)おうちに乗り込む
それから一週間後。
「わあ、あったかい」
亜紀は由紀子のマンションのドアが開いたとたんに叫んだ。外は木枯らしの吹きすさぶ寒さ。なのに、由紀子の部屋はとてもぬくもっていた。
寒いところにじっとしているんじゃないか、という事前に漠然と抱いていたイメージが違ったので、亜紀はうれしくなったが、憂鬱そうな由紀子の返事を聞いて、言葉を失なった。
「暖房のスイッチが切れないの。億劫で」
「え」
「信じられないでしょ。もうずっとつけっぱなし。リモコンがね、テーブルの下に落ちちゃって」
由紀子の視線の先には小さなテーブルがあった。亜紀は急いでそこに歩いていった。
テーブルの下には、本とか、ペンとか、なぜかお皿や脱ぎっぱなしの衣類。それをかき分けると、灰色をしたエアコンのリモコンが出てきた。亜紀は急いでそれをとり出す。由紀子は悲しそうにそれを見ていた。そして弱々しく言う。
「呆れたでしょ」
さすがに亜紀も何と返したらいいか最初は困った。どうやって由紀子を傷つけないように取りつくろうことができるか、いい文句が浮かばない。
「気にしないで」
やっとそれだけをつぶやくように言った。
先日の二人の飲みのとき、今度由紀子の家を訪問することを、亜紀はなかば強引にねじ込んだ。由紀子は乗り気でなかったが、一人暮らしの彼女をこれ以上放ってはおけない。家はゴミ屋敷だと言っていたので、せめて片付けと掃除を手伝おうと今日はやってきたのだ。
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