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(4)「なってみなきゃ分からない」
うつ病のことは亜紀は知識としてしか知らない。
この際だから、はっきりと聞いて、本当に由紀子のためになることをしよう、と亜紀は考えた。それが常人の発想だとはまだ知る由もない。
「ねえ、由紀子、はっきり言ってね。由紀子ができることとできないことを知りたいの。できないことは私ができるだけ助けるから」
とたんに由紀子は苦しそうな表情になった。亜紀も当てが外れたようで不安になる。
「できること、ないよ。この間もそう言ったでしょ」
少し語気が荒い。亜紀はややひるんだ。が、このままでは彼女の言葉を追認することになるような気がした。
「由紀子、そんなことないじゃない。だって、ほら、この間、居酒屋まで出てきて、一緒に飲むのもできたくらい。前は断ってたことが、できるようになったでしょ」
「あの後、三日間寝込んだんだよ。トイレに行くのも我慢するくらい、ずっと寝たきりで」
「……」
まるで亜紀を非難するような言い方になっていた。
「ごめん」
「いいよ。この病気のことは、なってみなきゃ分からないんだから」
横を向いてしまった由紀子を見ながら、亜紀はこの病と闘うには、思っていた以上の覚悟がいるのかもしれない、とようやくに思い至ったのだった。
とにかく自分はあくまで落ち着かなきゃ、と亜紀は気づかれないように、静かに深呼吸をした。
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