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(5)テレビを見にきたわけじゃぁ
人の家を片付けるのは、思った以上に骨が折れる。
最初は、由紀子に指示してもらって一つずつ収納していけば、さほどかからずにできるのではないかと考えていた。しかしいざ始めてみると、はかばかしくはすすまない。
テーブルの周りに散らばった生活用品。
ハサミをとりあげ、
「これはどこにしまうの?」
と声をかける。由紀子はこたえる。
「そっちのペン立てに入れて」
言われたとおりにする。これは楽な方だった。
小さいトートバッグが落ちている。
「これは?」
「わからない、とりあえずそっちにおいて」
横にある本棚の上を指さした。これではモノを平行移動させているだけだ。
「言われたところにしまうから。遠慮しないで指示して」
「本当に分からないの」
だいたいがこの調子だった。
だるそうに座っていた由紀子がやがて言った。
「ごめんね。私少し横になる。亜紀も休んで。テレビとか、見ててもいいよ。音は気にならないから」
といって、ベッドに横になってしまった。亜紀は途方に暮れた。
テレビを見に来たわけじゃないんだけどな。
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