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(7)「ちくしょう」
しばらくじっと、その赤い文字をみつめていた。
亜紀はなんだかんだ言って、たいがいのことは明るく受け止めることができた。でも、これは。
「ちくしょう」
亜紀は小声で、しかし強くつぶやいたのだった。
終業時間だ。これから飯田橋まで急いでいかないといけない。今日はノー残業デーで、道彦と夜に合うことのできる週1回の日。
「お疲れさま」
軽く挨拶をして、亜紀は建物を出た。もう外は日が暮れている。
『本当に、今は日が短い』
そうすると、焦る気持ちがわいてくる。
地下鉄の自動改札を通って、ホームに降りた。定時上がりの人はさほど多くはないようで、いつもより人は少なかった。
これから、飯田橋で道彦と会う。亜紀は由紀子の家を訪ねたあの日以来、一人では由紀子を支え続けることができるか自信がなくなっていた。亜紀の連絡に、道彦はすぐに応じてくれ、早く上がれる日を指定してくれたのだった。
彼は、ある大手文具メーカーの企画部にいる。一見おおざっぱなお調子者に見えるが、察しがよく親身な彼の性格はよくわかっている。亜紀は学生時代から、からかいながらも一目置いていたのだった。
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