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(1)うつ病って……
「お待たせ」
和モダンの居酒屋に現れた由紀子は、赤いスカートをはいて白いブラウス。しゃれたコートを着ていた。首元には金色のペンダント。黒やグレーの多かったこれまでの由紀子とはずいぶん違った印象になっていた。
『これは少し良くなっているのかな』
ひそかに亜紀は期待した。
由紀子と亜紀は親友どうしである。学生時代からの仲だ。久しぶりに二人で飲もうと誘った。
「似合うじゃん」
「でもだめなのよ。家はゴミ屋敷状態」
亜紀がほめると、由紀子は小さな声でこたえた。ファッションとは対照的に表情は硬い。
まだだめなのか、と亜紀は心の中でため息をついた。
「ねえ、言いにくいけど、お金、大丈夫? 食べてる?」
亜紀がきくと、由紀子は「まだ貯蓄があるから大丈夫」といいながら、「働かざる者食うべからず」とつぶやいた。
由紀子がそうつぶやくのをきいて、亜紀は耳を疑った。
なぜ、パワハラでうつ病、そして休職に追い込まれた由紀子が、自らのことをそんな風に言うのか。亜紀は憤激した。
こうして接している分には、由紀子の態度に変化はない。けれど、仕事の話は厳禁だ。急に人が変わったようにヒステリックになってしまう。
由紀子がうつ病なんて……。亜紀は最初は愕然とした。いきなり友が未知のものに変わってしまったように感じたのだ。どう接したらいいかわからなかったから、うつ病に関する本を購入して勉強した。自殺の可能性がある病だということは、亜紀も知っていたから。
「まじめで責任感が強い」—うつ病になりやすい人の性格をみて、亜紀は納得した。由紀子はまさにそういう人だった。
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