序開

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序開

ワールドカップサッカー日本対ブラジル準決勝、間もなく始まります!日本中、熱烈なサッカーファン、にわかファンがいまかいまかとその時を待ち望んでいる。 その日、田口洋介はタバコを切らしていた。年齢は26歳、身長は170㎝で体重86キロ。肥満体である。定職はなく、たまに登録してある派遣会社からの依頼に応じ、送られてくるデータの誤植確認をしている。実質、収入はその仕事くらいで、後は親に依存しての生活。いわゆるほぼニートである。ものぐさな性格で、ゴミ箱にゴミを捨てるのも面倒くさい。投げて入らなかったらそのママ。トイレに行くのも憚り、ペットボトルに用を足すといった始末である。タバコはカートンで10箱ほど購入していたが、ついに最後の一箱、一本がなくなってしまった。『面倒くさ・・』この日が来るのはわかっていたが、タバコを止められる訳がない。田口洋介は思案する。・・・・・・・・・三時間かけ、出した結論は、やむを得ず近所のコンビニ、僅か10.2メートルまで買いに行くことだった。 田口洋介は車の鍵を手にし、部屋のドアを開けると玄関まで移動した。服装は上下ともグレーのジャージ。着っぱなしなので、黄ばみが目に、臭いが鼻につく。玄関の方で母親がもの音に気付いて居間から顔をだすと、珍しく引きこもり息子が外出するところだった。「洋介、あんた何処に行くのよ珍しい。」息子が外出するなど実に三ヶ月ぶりに見たきがする。「うるせぇ、タバコ買いにコンビニ行くんだよ、ババア!それとも買って来てくれるのか?」いちいちイラついた態度を見せ、自分が上位の如く振る舞う。「ハイハイ、好きにしなさい、っていうかあんた車で行く気!?」コンビニの敷地まで、距離は10.2メートル。歩いても八秒ほどか。その距離を車で行くと言うのだ。余談だが、筆者がある女性と会話した時の話であるが、曰く、「私、五メートルも歩きたくないんだよね。」「じゃあ、どうすんの?」「すぐタクシー。近くに行くのも使っちゃう。」と悪びれることなく言った。とまぁ、世の中、実際いろいろ考え方はあるようだ。話しを本題に戻そう。 田口洋介は母親の言葉に耳を貸さず、無言で玄関を出た。時間は午後九時三十八分。軽自動車に乗り、あっという間にコンビニの駐車場にたどり着いて店内にへ。店内には何人かの女性客がいたが、田口洋介の格好、臭いにクスクスと笑う気配があった。他人の前になるとこの手の人間は弱い。自分の格好が突然恥ずかしくなり、そそくさレジに向かうと手持ちの金で購入できる分三カートンを買い、逃げるように店外に出た。 「くそっ!」田口洋介は車内のダッシュボードを両手で打ち付ける。『これだから外に出るのは嫌なんだ!』必要以上に人目を気にするから外に出たくない。出た先で何かあれば余計羞恥心が強く出て、外出する気が益々なくなる。悪循環である。人の言うことに耳を傾けることをし、自分の何処が問題なのか、それは自分的には問題がないが、他人的にはどうなのか、自分で気付かない限りは、対人関係が改善されることはないだろう。 田口洋介は車のエンジンをかけ、前方左右と目視をろくにせずスマホに集中している。スマホから手を離しアクセルを踏んだところで、ゴン!と言う音と共に、鈍い衝撃を感じた。 「痛い!痛い!」 車外から女性の悲鳴が聞こえる。コンビニの店内から女性客、店員が飛び出して来てボンネット前方に駆け寄る。「大丈夫ですか!」 店員や女性客が車内からは見えない倒れている人に声をかけているのが見える。だが、車内の田口洋介はハンドルを握ったまま、放心状態で動こうとはしない。その内、救急車や警察に電話をする様子が目に入り、コンビニの店員が車の窓を叩いて自分を呼ぶ行動に出た。「あんた、人を轢いてるのに何してんの!すぐ出てきなさいよ!」店員は語気を強めている。田口洋介は不意に現実に戻ると、恐れをなし、車を急発進させた。ゴン!ゴン!鈍い音と衝撃、そして乗り上げる感触。それらを一切無視し、田口洋介は駐車場から逃走。何処へともなく、遮二無二車を走らせた。
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