回想

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回想

池袋駅東口前交差点周辺には居酒屋が多数点在する。ワールドカップサッカー開催期間中、集客のため、サッカー中継を見て飲食しながら応援しようという店が多い。日本はブラジルを破ってまさかの四強入。8強に入っただけでも大騒ぎだったのに、この放送終了後、興奮の余韻冷めやらぬ、酔いも冷めやらぬ状況で人々は池袋駅周辺を徘徊していた。夜だと言うのに、大混乱である。ホーンを鳴らす者も多数いて、まるで暴動が起きているかの様相だった。田口の件で警官が多数いるにも関わらず、街中は大混乱である。車道はバリケードをはり、後方にパトカー6台配備。封鎖完了しているが、この状況では車道以外の警護が手薄になってしまう。警視庁では他区の警察署に応援要請を行っていたが、少なくとも渋谷区、新宿区は応援要請に応じる余裕は全くなかった。 田口洋介は池袋に入っていた。国道17号から途中、一般道を経て都道435号へ。現時点でスコアは23。思ったより人が少なかったのが不満だった。しかし・・田口は考えていた。『なんで池袋だったんだろうな。』何となくカーナビに入力した場所。そう言えば、大学1年生の時、4人組アイドルグループClickの応援に池袋へよく来ていた気がする。clickのあむあむが好きで握手会に参加するためCDを沢山買った。握手会では、手をなかなか離さない、他のファンを冒涜するなど迷惑行為を理由に出禁になったことが腹立たしい。その後、あむあむに嫌がらせの贈り物やSNSへ誹謗中傷を繰返し、引退寸前に追い込んだことで溜飲は晴らしたが。『思い出深い地ではあるか・・』そんなことより、今はド派手にいくこと!田口の顔が狂喜に染まった。 田口洋介の運転する軽自動車が目視できる距離まできていた。都道435号を時速100キロ近くで走行しているようだ。池袋警察署員に緊張が走る。サンシャイン前交差点、ここがマルタイの終焉になることは現場にいる誰もが疑いようのないことだった。しかし、マルタイはここでまたしても定石の行動を覆す。けたたましいタイヤの摩擦音とともに、田口の軽自動車は右側へ急カーブし、サンシャイン60通りにそれ、そこから一気に加速を始めたのだ。検問前、すぐ手前の出来事であり、警察の沽券に関わる一大事。直ぐ様、直進先東口五差路周辺で区民を誘導している警官へ被害が拡散するならば発砲するよう許可を出した。合わせて検問地点からも警官が多数走って追走。惨劇の後を追う形となった。
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