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翌日の晩、いつもより少し早めに公園の訪問者はやって来た。大地は昨夜拾ったマルボロをポケットに突っ込み、今度はゆっくりと玄関のドアを開けて外に出た。昼間の暑さはすっかり和らぎ夜風が心地よいものの、公園へ向かう途中大地の心臓はバクバクしていた。
《ガキでもあるまいし……進級して全く知らないクラスメイトに話しかける一言、その直前みたいじゃんか……》
公園に入り男を視界に捉えた所で弱気になる。
《待てよ……コレを渡したらいつも見てる事がバレないか?……や、タバコ吸ってるんだからコレあなたのですか?と言えば良いだろ?……にしても不自然じゃなかろうか……ここはやはり偶然を装った喫煙者のパターンで行こう》
大地はそのまま進み、視線が正面から重ならない様、男性の座っているベンチ横にある灰皿を挟んで隣のベンチを目指した。
《まずは"こんばんは"だけで良い、目は合わさない。ジロジロ見ても不自然だ》
「こんばんは」
ぅ、ちょっと声が上ずったかも……
チラッとだけ男に目をやると彼は俯いたままタバコを吸っていた。
《うっ……邪魔だったっ!!??何も返答しないとか……邪魔だった!?俺!?》
大地は混乱したが何もしないのも変だと思い隣のベンチに腰掛けて自分のタバコを吸い始めた。
沈黙が重すぎる。当たり前だが小説や妄想と現実は違うのだ。物事はそう上手く展開しない。大地は再び視線をチラッと男へ移すとバッチリ目があってしまった。
「っ!!」
大地は驚いて仰け反った。その相手は昨夜大地がドアを武器に頭突きを食らわした男だったのだ。
「昨日す、す、すいませんでした」
大地は妙にキョドって全身から汗が吹き出てくるのを感じた。一方相手はジーーッと大地を見たまま「大丈夫ですから」とだけ言って再び正面に向き直りタバコを吸った。
「それなら……良かったです」
おでこは本当に大丈夫だったのかと大地が男の顔を覗き込んだ。
《まさか………昨日の人が公園の訪問者さんだったなんて……て言うかやっぱイケメンだ。これが世間に言うイケメンっうヤツに違いない……俺より歳下だよな……仕事帰りか?鳶職?やべえ…………萌える……ニマァ……》
「アンタ良く俺の事見てるよね」
突然話かけられ大地は我にかえった。
「えっ?!ええ!?」
男の言った言葉を頭の中で繰り返してみる。
《俺の事見てる?良くみてる?へ?今?今の事?》
大地はパニクって目をキョロキョロと泳がせた。完全にその思考は混乱している。
「毎晩同じ時間にあそこでタバコ吸ってる」
《ガーーーーン》
「それと。それ、俺のだよね?」
男が視線を落とした先、大地のハーパンの右ポケットからはマルボロが半分落ちかけていた。
「わ、あ、こ、これは」
《ヤバイ!拾ってネコババしたとか思われてるっ絶対に!て言うか見てたのバレてるしーーーーー!》
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