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「恋とダンスとバイトとetc」
「いらっしゃいませ」
レジに置かれたミントタブレットとシャーペンの芯のバーコードを読み込んで顔を上げた克己は動きを停めてしまった。
咎めるような玲子の視線とぶつかってしまったからだ。
「温めますか?」
取り繕ろおうと余計な一言を口走り、後ろの客の失笑をかってしまう克己。
まあ、こんな学校近くのコンビニで夏休み中バイトすることにしたのをまだ玲子には伝えていなかったのは克己が悪いのだが。
「後で。メールするから……」
辛うじてそれだけ小声で言って玲子の後ろに視線を逸らす克己。
玲子もここであれこれ言うのはまずいと察したのかチラリと克己に怖い眼を向けただけで済ませてくれた。
ーーーーー
「それはなんとかする」
たった1行の返信以来、克己から何の連絡もないまま夏休みを迎えてしまった玲子は、日毎迫る転校の日への焦りもあってまんじりともしない日々を過ごしていたのだ。
(どんな事情でバイトなんか始めたのか知らないけれど。せめて一言何か言ってくれればいいのに)
言えた義理では無いのだが、玲子は胸の内で克己にあたってしまう。
「彼女になってくれとか言った癖に」
店を出て歩きながら、玲子はイラつきに任せて買ったばかりのミントタブレットを数粒口に放り込んでひとりごちる。
ミントの刺激に目を覚まされて、玲子は心の中の克己に目を伏せる。
(友達との淋しい別れを何かと紛らせようとしているこんな時期に、告白なんかしてくる先輩が悪いんだ)
玲子は自分に言い聞かせる。
(あたしは何にも悪くない)
転校しなくちゃいけないのはあたしの責任じゃないし。
恋に悶々としなくちゃいけないのは先輩の所為。
(あたしは何にも悪くない)
無意識に又タブレットを一粒口に放り込んで玲子はうそぶく。
「全部克己先輩が悪いんだ……」
西日が玲子の影を伸ばし始めて、同時に玲子の頬も染めていく。
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