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部屋に戻った玲子はコンビニ袋を机の上に放りだすと、ベッドに身を投げた。
一学期の終業式も終り、夏休みが過ぎてしまえば転校までの僅かな学園生活を残すばかり。
とうに転校を伝えてある友人もクラスメートも取り立ててその事を話題に挙げようともしない。
それでも仲のいい友人は「思い出作りたいね」と言ってくれる。
父が元々転勤族だと言う事は玲子も知ってはいたのだが。
この地の工場長に任命されてからは、玲子や弟の雄馬が産まれた事もあってか、もうずっとこの地での勤務が続いていた。
(いつかは来ることだと。意識の上ではわかってたつもりだけど)
ベッドに仰向けに寝転び、玲子はここでの生活に思いを巡らす。
ひっくり返りそうになりながらも、うれしくてしょうがなかったランドセルでの初登校。
バスケットボールを追いかけた中学校の部活。
砂と埃にまみれて友と叫んだ体育祭。(そして、そして……)
込みあげそうになる玲子の耳に耳障りなコール音。
寝ころんだままベッド端に投げていたスマホを取り上げると玲子は頭上にかざした。
点滅する着信ランプが淋しい玲子の胸を打つようだ。
ひそめていた眉を緩めて玲子は画面を開く。
差出人「櫻井克己」
件名「ゴメン」
玲子は身じろぎして身体をほぐし、指先で画面をスワイプする。
「スパッツの購入資金貯めるためにバイト始めました。教えておけばよかったよねごめん」
(断ったつもりなのに……)
玲子は苦笑する。
(やっぱりキチンと断るべきなんだろうなあ)
頭ではそう思うのに、何故か行動に移そうという気にもなれない。
ゴロリと寝返りをうちレジにいた克己の姿を思い出す。
「心配しなくてもちゃんと学校の許可は得ています。というか風紀委員長の俺が無許可でバイトしてたら大問題だよね」
無邪気な文面に思わず頬が緩む。
「そもそも踊るなんて一言も言って無いんですけど」
知らず声に出して画面に返事してしまう玲子。
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