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平民から貴族まで、詠んだ短歌で今後の進退を決めるとは言え、短歌が気に入らずに社に不服を申し立てて、歌占職人たちを処刑にするばかりか、社に火を点けるようなことになれば、それこそ一大事だ。
だからと言って、貴族に媚びるような短歌を詠うことは、神さまから授けられたことばに背くことを意味する。神さまの意志に背を向けることになってしまうが、神さまのことばを信じるしかない。
神さま、どうかわたしにことばを下さい。祓えども祓えども頭を蝕んで来る雑念を、なおも祓いながら、コマチはことばが授けられるのをひたすら待った。
「う、き、ぶ、ね、の。な、み、に、ま、せ、つ。か、わ、わ、た、り」
コマチの頭に五、七、五の句が浮かび、自然と動いた指が、筆を構えて短冊にさらさらと文字を綴り始める。浮きぶねの、波に委せつ、川渡りという句が完成した。
「どういう意味だろう? 物事の流れに逆らうなということかな」
自然の成り行きに委せろということなのか。ことば通りの解釈だと力を抜いて何もするなと捉えられる。神さまが人間に怠惰と脱力を教示したとも考えづらく、短絡的な教えをするとも考えにくい。
神さまが誰宛に詠んだ短歌なのかもコマチにはわからない。短歌はコマチの解釈を拒むようで、考察すればする程、謎が増すばかりだ。次の一句からコマチの頭が離れていく。
「次の一句を詠わないと、終わらないよ」
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