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「言われてみれば」
コトダマが有言実行の力を持つことは理解出来たが、コマチにはわからないことだらけだった。
これから神さまが自分にどんなことばを授けるのか。詠った短歌をどこの誰がひいて、どんな感想を得るのか。わからないが、自分の短歌をひく人間が、藤花祭の晩、必ず現れるということだけは、ハッキリとしていた。
それでも、ひとがこの社で詠った短歌で生き方を決めるということは、ひとが自分の意志で人生を決めることが出来なくなってしまうのではないかという不安もある。
ストク天王が没前に詠った恨み歌が、詠唱京のひとびとに病みを植え付けたというのが真実ならば、病みに抗うために神さまから授かったことばで短歌を詠う、ウタウタイの社は必要なのかもしれない。
ストク天王の辞世の句は、詠えば呪われる恨み歌と聞くが、一体全体、それがどのような短歌なのかも、とても気になる。
詠唱京にそんな呪術集団の集う社が昔からあり、自分はその中で働いており、神さまのことばで短歌を作っていることを、誰かに伝えたいが、それはここではご法度だ。とコマチは雑念を振り払った。
「ここで詠い続ければ、有言実行の力もしだいに付いてきます。精進なさい、コマチさん」
「そうします。ストク天王の辞世の句がどんなものなのか、興味あるのでストク院へ行っても宜しいですか?」
不意にコマチはツブネに訊ねた。
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