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「んじゃ、まずは乗って、走らせるとこからやってみようか」
通っている高校のジャージを着て、人魚姫に声をかける信二。
「いいか、基礎は大切だ!
間違った重心のかけ方をしてやみくもに滑ると、大変なことになるぞ!
例えば、止まり方を知らない状態で坂道を降りてしまい、スピードをコントロール出来なくなって骨折したり…。
股関節が外れて、脂汗が滲んだり!その挙句に、職質に遭遇したり!!
そんなことにならないように、基礎からしっかりとやっておかないと!」
「職質?」
あおいの疑問には答えず、信二は体育教師のように、スケボーレクチャーを始める。
「まずは、スケボーを地面に置き、止まった状態で乗ってみよう。
片足を地面につけたまま、もう片足をスケボーに乗せる。乗せる場所は前方のビスの上。つま先は進行方向に向けて」
立っているのもやっとなのに、片足をスケボーに乗せていて、さらにバランスが悪い。人魚姫はいまにも倒れそうに、ふらふらしている。あおいに借りた服が、汗びっしょりで気持ち悪いほどだ。
心配そうに見ているあおい。だが、人魚姫は練習をやめるつもりはなかった。
「よし!じゃあ、地面につけている足を、スケボーに乗せてみるぞ!
後方のビスの上に、横向きに足を乗せるんだ!さあ、やってみよう!」
人魚姫の足は、スケボーごとゆらゆらと揺れる。なかなか地面についている足を、スケボーの上に乗せることができない。
信二は、大声で叱咤する。
「怖がるな!怖がって、重心を前後に傾けてしまうと、転んでしまうぞ!
前足に重心を保ち、スケボー本体が揺れないように、そっと足をスケボーの上に移動!両足が乗れば、自然と重心は中央に移るから大丈夫!さあ、思いきっていけ!」
…もう、転んでもいい!とにかく、やってみるしかない!
人魚姫は覚悟を決めて、思いきってスケボーの上に足を乗せる。
一瞬ぐらついたスケボーと身体。しかし、前足も後ろ足も横向きにして、両腕を広げてバランスをとっているうちに、重心が中央に移ったのか、すっと身体が安定した。
(乗れた…!)
人魚姫は、心地よい達成感が、身体中を包み込んでいくのを感じていた。
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