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「うおおぉぉお!!」
叫びながら走ってくる人影。信二だった。
人魚姫は信二に突き飛ばされ、桟橋の上に転がる。
その間に、スケボー板は転がっていき、海の中へと落ちてしまった。
(ああっ!)
慌てて海の中を見る人魚姫。スケボー板は、暗い海に落ちると、ふわっと無数の泡になり、消えてしまった。
「ああ…」
人魚姫は落胆の声をあげる。もうスケボーをすることはできない。生きていたって仕方がないのに。
ふらふらと海に飛び込もうとする人魚姫の手を掴み、信二は叫ぶ。
「馬鹿野郎!死んじまったらどうすんだ!
スケボー板は、またフリマアプリで買ってやる!サインだってまた書いてやるから!だから死ぬんじゃねえ!
おまえが死んだら、おれもあおいも悲しむぞ!マリコさんも、じいさんもだ!他にも、悲しむやつがいるかもしれねえ!
おまえは、おれたちの、大切なスケボー仲間だろうが!勝手に死ぬなんざ、絶対に許さねえ!」
「大切な、スケボー仲間…?」
信二にぎゅっと抱きしめられて、人魚姫は、心の中がふわっと暖かくなるのを感じていた。
暖かい。人間って、こんなに暖かいんだ。
と、人魚姫の頰に、冷たい水が触れた。
「…涙?泣いているの、信二?」
「そりゃ泣くよ!男が泣くなんてカッコ悪いけどさ、おまえが死んだら、おれはもっと泣くぞ!それでいいのかよ!」
「…よくない」
そう、私だって、信二に泣いてほしくなんかない。笑っていてほしい。
そうか、愛って、特別な事じゃないんだ。人を大切に思う気持ち、それこそが愛なのね。
何故だか涙がこみ上げてきて、人魚姫は、ただ声を上げて泣いた。信二も泣きながら、人魚姫が泣き止むまで、その頭を優しく撫で続けていた。
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