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人間2日目
暖かい布団の中で、人魚姫は目を覚ます。微睡みながら、昨日のことを回想する。
昨日は、海沿いにある、あおいの自宅まで歩いた。あおいの手に掴まらないと、一歩を踏み出すことさえできない。慣れない歩行に疲れ果て、あおいの家に到着すると同時に、玄関先で倒れこむように眠ってしまった。
…はあ、歩くだけで、こんなに大変なんて。スケボーなんて、本当に私にできるのかしら。
人魚姫がため息をついた瞬間、部屋にノックの音がした。一拍遅れて、部屋のドアがガチャっと開く。
「おはよう、記憶喪失で失語症の美少女さん。
…って長いわね。言いづらいったらありゃしない」
Tシャツにジーンズ姿のあおいは、人魚姫ににっこりと笑いかけると、人魚姫に着替えを渡した。パットの入った下着と、花柄模様のワンピース。
着替えの終わった人魚姫。その手を取って、あおいは一緒にゆっくりと階段を降り、一階のリビングへと誘導する。
人間の世界のものは、人魚姫にとっては全て目新しい。特に人魚姫の興味をひいたのは、リビングにある、『てれび』という箱だった。
テレビから流れるさまざまな映像に、釘付けになる人魚姫。ちょうど、朝のニュース番組が流れていた。
「へえ、アメチョリカ合衆国大統領のアンヨ・カワウィーネ、開発途上国への人道支援拡大に踏みきる、ですって。なかなか立派な大統領じゃん。私、感心しちゃった。
この大統領ね、就任当初は、アメチョリカ・ファースト!なんて言ってたの。新型核ミサイルの開発をしてる、なんて黒い噂もあったけど、そんな人ではなさそうね」
テレビに出てきた大統領について話しながら、あおいは朝ごはんを並べる。ごはんに味噌汁、卵焼き。湯気がふわりと漂い、おいしそうな匂いが鼻腔をくすぐる。
…これが、人間の食事。
あおいの真似をして、両手を合わせてから、二本の棒で卵焼きを突き刺して、口に運ぶ。
…おいしい!
そんな人魚姫の表情が伝わったのか、あおいはピースサインを作って、人魚姫に満面の笑みを見せた。
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