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人間30日目〜終わりの始まり〜
「へえ、人魚姫、ねえ…。
荒唐無稽な話だけど、信じてもいいかなって気分になるのが不思議ね。ねえ、信二」
あおいの自宅、人魚姫が借りている畳の部屋。あおいは腕を組んで、しみじみと言う。
結果的に、スケボー板が海の泡になって消えたからか、人魚姫は声が出せるようになった。
人魚姫は、長い時間をかけて二人に事情を説明し、今までのお礼を言う。
「まあでも、これで、普通の人間になれたんだろ?スケボーし放題じゃん。よかったな」
呑気な声で言う信二に、あおいは言う。
「何言ってんの。まずはスケボー板を買ってあげなきゃ。信二、あんたはお小遣い、いくら残ってる?えっと、財布財布…。
あら、結構持ってるじゃない。これならフリマアプリ使えば、買ってあげられるんじゃないの?」
「人の財布、勝手に見るんじゃねえよ、あおい!」
文句を言う信二を、華麗に無視するあおい。そんな信二とあおいに、人魚姫は申し訳なさそうに言う。
「ありがとうございます。でも、そこまでして頂くわけには…。
それに、あのスケボーには思い出がたくさん詰まっているんです。あのスケボー以上の物なんて…」
「それは違うぞ、人魚姫」
信二は、きりっと真面目な顔になって、人魚姫に言う。
「思い出はな、スケボー板の上にあるんじゃねえ。おれたちの心の中にあるんだ。人魚姫、おまえの胸の中にもあるんだろ?
そう、あおいと違って豊満な、その胸の中にも…げふっ」
あおいに殴り飛ばされ、畳の上を転がっていく信二。よろよろと立ち上がりながら、さらに言葉を続ける。
「それに、新しいスケボーにも、たくさん思い出を乗せてやればいい。これからも、おれたちはずっと一緒なんだから。
そうだ、とりあえず、新しいスケボーが届いたら、おれたちみんなのサインを入れてやるからさ。な、人魚姫」
殴り飛ばされて傷だらけになった顔で、にっと笑う信二。となりで、あおいもにっこりと笑って、人魚姫に向かって頷く。
「…はい」
つられたように、人魚姫も笑った。
終わりの始まり。
人魚姫のスケボー人生は、これからも続いていく。大切な、スケボー仲間たちとともに。
END
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