朝三暮四

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俺はコンビニで働いている。 失職して一時しのぎのつもりで、軽い気持ちでコンビニでバイトを始めたのだが……. 折からの人手不足の波は、このコンビニにも到来した。始めた当初は5時間勤務だったのが、延びてはまた延び、延びてはまた延びで、今じゃ、休憩時間入れて11時間も拘束される始末である。 人がいい俺は、店長に拝み倒されるとなかなか断れないのだ。 今の俺は、早番で午前4時開始、午後3時終了である。 最近、店長はよく飴をくれるようになった。長時間勤務の俺を少しでも労ろうという気持ちなのだろうか? 特に欲しくもないが、断るのもなんか悪いので、とりあえず毎回貰ってはいる。 ある日、店長が俺に声をかけてきた。 「君、朝三暮四って言葉知ってる?」 「はあ。だいたいの意味は」 「流石、大卒だね。君もよく知っている通り、中国の言葉でね。目先の違いに気をとられて、実際は同じであるのに気がつかないこと、っていう意味だよね!」 「はあ……」 「あのさ、君に飴あげてたじゃん?」 「はい」 「あれさ、来たとき飴四つ、帰るとき飴三つ渡してたけど、これからは来たときは飴三つ、帰るとき飴四つ渡すことにするけどいいかな?」 「あ、別にいらないっす」 「そんなこと言わないでよ! そこ、怒るとこなんだから」 「いやいや、さっき言ったばかりじゃないですか? 朝と暮れ合わせて七つなら同じことなんじゃないですか!」 「そうだよね。ちゃんと分かってるじゃない」 「朝三暮四って言ったばかりじゃないですか!」 「じゃ、OKだよね?」 「ええ、全然構いませんけど」 俺の答えに満足したのか、店長は話題を変えた。 「ところでさあ。君の勤務時間なんだけど、今は朝4時から始めてるよね?」 「はい」 「で、終わりは午後3時と」 「はい。そうです」 「それをさあ、朝3時、夕方4時にしてもらいたいんだが、何も問題ないよね!」 「えっ!」 「ないよね! ないよね!」 「はい……じゃねーよ! んなわけあるかーい!」 「ちっ! 引っ掛からなかったか」 「んなもん、引っ掛かるわけないですよ」 「君ならころっと騙されると思ったんだがな。仕方ない、別の奴を騙してみるか」
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