その傘・・・

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その傘・・・

あれ以来、高い傘は買わないことに決めた 横浜元町のチャーミングセールできれいな水色の傘を買ったあの日 ちょうど、雨が降ってきて、ビニール傘でもよかったけどきれいな水色の傘が目に入り思わず買ったものだった そのまま地元に帰りデパートの化粧室に入った 洗面所の縁に傘の取手を引っ掛けて手を洗ったり化粧や髪型を直したりしていた 自分が悪いのかも知れないがそのままうっかり化粧室を出てしまった 少しデパートをウインドーショッピングでもしようと歩いていた ものの5分くらいだと思う あっ!傘を忘れた! 急いで戻ったが洗面所にかけておいたはずの水色の傘はもうどこにも無かった あ~~ 落胆したと思ったら今度は身体が熱くなりまだその辺にいるんじゃないかと思った 走り始めていた ハンニンはどこへ行ったかはわからない とりあえず同じ階を行ってみる するとカップルが歩いている 男子が水色の傘を持っていた あれはわたしの傘なのか? 確証はないからいきなり声はかける事は出来ない しばらく後をつけて行くとパーラーに入って行った えい、わたしも入ろう! 入って二人の会話を聞こうという衝動に駆られた 男子がわたしの方を向いて座り彼女は背を向けて座った 水色の傘はテーブルの隅にひっかけてあるのが見える 二人の会話に傘の話がなかなか出てこない 怪しまれない程度に男子を見るとなんと、かなりのイケメンで、わたし好みの雰囲気 なおさら憎らしい もし、彼女が、 化粧室にこれあったんだけどもらっちゃおうかな? と、言ったらどうする? 取りに来るかも知れないからやめておきなよと言うか いいんじゃない!と言っちゃうやつか もしかしたら彼と会う前に化粧室に寄って傘を見つけたのかも それで会ったとき、彼が大変だからぼくが、持つよなんて言って何も知らずに持っているのかも知れない 妄想を膨らませながらいちごパフェを食べていた パフェなんて久しぶりだ 話を盗み聞きしてはいけないけど彼はかなり彼女にメロメロだ あまーい言葉ばかりをささやいている 羨ましいけどこんなオトコ嫌いだ この時点でわたしの目的は完全に違う方向へ向かっていた 傘を見極めねば わたしのか否か なにせ、さっき買ったばかりだから記憶が、曖昧なんだ ふと、忌まわしい思い出が頭に蘇ってきた それは小2のとき、お医者さんの帰りバス停で一人で並んでいたとき 前に母親と小学生の娘が、並んでいた 急に母親の声 「あっ、これいいじゃない」 わたしが見ると見覚えのあるブローチを娘の胸につけているところだった あっ、わたしのブローチ もう、すっかり娘のブローチになっていて わたしのですって言えなかった 落としたばかりだったはずなのに その母親は誰のものかもわからないブローチを拾って娘の胸につけていたのだ その親娘はそのままわたしとは行き先の違うバスに乗って去って行った もう、二度とは会えないだろう 小2のこの出来事はわたしの心に小さいが深く黒いシミをつけ、忘れる事はなかなかできなかった ハキハキしなさい と、言われていたのにやっぱり出来なかったことが、ショックだったんだろうと思う そんなことがあって 傘の事はもし、確証があるならたずねなければいけないと思うのだった 一時間ほどすると、二人は会計を済ませて出て行った 怪しまれないように少ししてわたしも店を出た 目先だけは二人を追いつつ もう、ここで聞かなければあとはない ここまで来ると傘が自分のではないかというよりこの二人に声をかけることが出来るかどうかになってきていた わたしは意を決して後ろから声をかけた 「あの~、その傘、きれいな水色ですね、どこで買われたんですか?わたしも欲しいので」と 言えた 二人は、顔を見合わせて、何か言おうとしていたけどすでにわたしは達成感でいっぱいになっているのだった
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