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「本宮サン、いつもどんな音楽聴いてンの?」
ライブ楽しんでたみたいだし、音楽スキなんだろ?
今日の栗橋は、そんな質問をしてきた。
「俺は、Oriental Blueの熱烈なファンだから、オリブルばっかり…です」
「へえ…割と王道っつーか、ベタなのがスキなんだ」
栗橋は、珍しくニッコリ笑った。
「とか言いつつ、俺もスキなんだけどさ…神だよな、オリブル」
笑顔とハッキリわかる笑顔を見るのは初めてだ。
音楽の話をするのが嬉しいのかもしれない。
普段かなり愛想のない無表情なので、そうやって笑うとまた印象が少し変わる。
この前のライブのときのギラギラした顔といい、この高校生は意外性の宝庫だ。
今の子はみんなこんなんなのかなーと思って、陽太は、自分もつい数ヶ月前までは高校生だったんだ、と思い至って可笑しくなった。
「アンタさ、普通にしてても可愛いけど、笑うとマジでヤバイ」
そう言われて、自分が思わず笑ってしまっていたことに気づく。
つーか、この子も鷹城さんみたいなこと言い出したよ。
大学生男子に可愛いって言って、喜ぶと思ってるのかな。
「てかさ、今度また、この前のライブハウスでライブやんだけど、アンタのためにオリブルの曲も演ることにするから、聴きに来てくんない?もちろん、あのオッサンが一緒でも全然いーからさ」
陽太の内心のモヤモヤを知ってか知らずか、彼はそう言って、チケットを二枚差し出した。
「これがたぶん最後のライブになんだよな」
受験勉強しなきゃなんないし。
「だから、今度はあのオッサンにエラソーなこと言わせないぐらい、完ペキな演奏して見せっから」
陽太は、それなら逆にオリブルの曲は演らないほうがいいんじゃ…と喉元まで出かかったけれども、それは呑み込む。
言いたいことは言った、というふうに、栗橋はくるりと踵を返して、レジに向かって歩いて行ってしまった。
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