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ライブは相変わらず楽しかった。 前回の高校生限定のノリももちろん楽しかったけれども、今回の年齢層豊かなラインナップでのイベントは、演奏の技術や合間のトークなんかにも幅があったし、それぞれに固定のファンがついてるバンドなんかもあって、更に盛り上がりを見せて。 陽太は、興奮し過ぎた人の波に呑み込まれそうになるのを、何度か鷹城に抱き止められて事なきを得た。 こういうときは、心底、小柄な自分が情けなくなる。 それと同時に、鷹城の腕に守られて安堵する自分のことも、ほんの少し歯痒く思う。 守られることが嫌なわけではない。 でも、鷹城には与えられてばかりな気がして、ちゃんと隣に並べているのか、不安になるのだ。 一瞬、そんなことを考えてぼんやりしてしまった陽太だったが、次の瞬間身体がふわりと浮いて我に返る。 「次、あいつのバンドじゃね?」 鷹城にひょいと抱え上げられて、耳許にそう囁かれた。 こういう混雑して騒がしい場所では、身長差のある二人が会話をするためには、そうでもしないとできないからなのだが。 以前も同じように抱き上げられたな、とふと思った陽太は、再び床に足をつけながら、更に思う。 ――鷹城と自分との間には、この身長差と同じぐらいの距離があるのではないか。 歳も、育った環境も、置かれている立場も、取り巻く世界も、何もかもに。 この先、陽太が歳を重ねて、社会に出て収入を得て自立すれば、その距離は縮まるのだろうか? なんとなく、少しも縮まる気がしない。 伸びることのなかった身長のように、この距離がいつまでも何一つ埋まらなくても、鷹城はずっと陽太を好きでいてくれるだろうか。 栗橋のバンドは、高校生バンドながらソコソコ人気があるらしい。 彼らがステージに登場すると、ワアッと会場が沸いた。 その歓声に応えるかのように始まったのは、一曲めからアップテンポのノリノリの曲だ。 答えの出ない不安についてグルグル考えていても仕方がない。 今はライブを楽しもう。 陽太は、一気に盛り上がった会場の熱気に身体を委ねることにした。 激しく腕を振り回すようなその一曲めが終わったあと、続いたのは少しゆっくりめのしっとり聴かせる曲。 そして、三曲めに、栗橋の予告どおり、Oriental Blue(オリブル)の曲のイントロが始まった。 栗橋のバンドは、オリブルと同じ四人編成の、ボーカル、ギター、ベース、ドラムからなる、ごくベーシックなバンド形態だ。 そのギター担当が栗橋で、おそらく彼が上手いらしいのは、音楽の知識がまるでない陽太にもなんとなくわかる。 ステージに出てきた当初から、栗橋はずっと、陽太を見て演奏していた。 いや、正確には、陽太の姿は人に埋もれて見えないだろうから、陽太と一緒にいるはずの鷹城を見て、側にいるであろう陽太を探しながら、と言ったほうが正しいのかもしれないけれど。 鷹城の長身と目立つ容姿は、これだけの人の中でも一発で見つけられるはずだ。 ギターを弾いている栗橋は、普段の何を考えているのか全くわからない感情の表現に乏しい無気力な高校生とは、全然別の人のように見える。 情熱的で激しいその音は、聴く人を惹きつけてやまない何かに溢れていた。 ギィャアン!と最後の一音が響いて、オリブルの曲が終わった瞬間、会場内がうわああん、と唸るような歓声に包まれる。 今日一番の大歓声だ。 それほど、彼らの演奏が会場の観客を捕らえたのだ。 ボーカルの少年が「最後の曲も、オリブルですっ!」と叫んで、更に会場が沸いた。 そのとき。
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