2.

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客席から、ステージの上に一人の男が飛び乗った。 陽太の耳に、耳を近づけなくても聞こえるほど大きな、鷹城の舌打ちが届く。 「あンの馬鹿っ!」 何事かとざわつく聴衆と、驚いているバンドメンバーの前で、彼は眼鏡を放り投げて、七三の髪を手櫛で軽く掻き回した。 「あ……アオイ!!!」 誰かがそう叫んだ。 その次の瞬間、会場に地響きが起こるほどの歓声が沸き起こった。 アオイは、ただそこに立っているだけで恐ろしいほどのカリスマ性を放ちながら、呆然としているバンドメンバーたちを見て頷いた。 弾け、と促したのだ。 そして、ボーカルの少年に近寄り、肩を抱くようにして一緒にマイクを握る。 真っ先に我に返ったのは、ギターの栗橋だった。 彼は、次に弾くはずの曲の最初のフレーズを軽く鳴らして、そして、一度音を止める。 その音でメンバーの意識を引き戻して、更に、おそらく一緒に歌ってくれようとしているアオイに、次に何を弾くのかを伝えたのだ。 高校生バンドとアオイのコラボは、物凄い盛り上がりを見せた。 会場全体が一つの生き物のようにうねり、押し寄せ、歓声を上げる。 もしかしたらその曲の間だけ、会場周辺には本当に地響きが起こっていたかもしれないというほどの。 もしも鷹城の腕が陽太を素早く抱き上げていなければ、小柄な彼は人の波に呑み込まれて潰されていたかもしれない。 それぐらい、激しく熱い数分間だった。 アオイは演奏が終わると、ボーカルの少年からマイクを借りて、熱狂する会場と、まだ夢を見ているような顔をしているメンバーの、両方に向けて言った。 「プライベートで遊びに来てたんだけど、あまりにもいい音だったから、つい飛び込んじゃって……スッゲェ楽しかった、ありがとう!」 そして、ライブハウスの関係者だろうか、慌てたようにステージの袖から出てきた人たちに囲まれて、袖の中に引っ込んで行ってしまう。 興奮冷めやらぬ状態の会場内で、陽太を腕に抱いたまま、鷹城は言った。 「あの高校生の演奏は終わったし、今日はもう帰ろう…万が一にでもアオイと俺たちの関係がわかるような事態になるとマズい」
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