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陽太はまだ半分寝惚けているような顔だ。
鷹城の問いかけに、ぼんやりとしたまま答える。
「両方、です…鷹城さんが、帰ってこない気がして、さみしくて」
それに、遠くに行ってしまう夢を見て、それで。
そうポロリと零してしまってから、ハッとしたように口を押さえる。
「どうして、止めんの?聞きたい、陽太…君からの熱烈な愛の告白、すっげぇ嬉しい」
鷹城は、陽太の顔を覗き込む。
「俺がいなくて、さみしくてこんなところで不貞寝したの?泣きながら?ああ、もう、なんで俺の天使はそんなに可愛いわけ?」
何度俺をキュン死にさせたら気が済むの?
鷹城は、腕の中の可愛くて可愛くて堪らない恋人を、だけど潰してしまわないようにそっと、キュッと抱き締めた。
「マジで可愛い……だけど」
どうして、俺が帰ってこないなんて考えた?
こんなに君を愛してるのに。
君を置いてどこかへ行くなんて、あり得ない。
独占欲が強すぎて、束縛が激しすぎて、たとえ君が俺から逃げ出したくなったとしても、絶対に逃がしてあげない。
そう思っているのに。
そう囁いたら、腕の中の恋人が、とんでもなくおかしなことを言い出した。
「だって…俺、すごく、重たいから」
「What?!」
何を言ってるのだろうか、この子猫より軽いかわいこちゃんは?
「君が重い?」
「俺、鷹城さんがいないと、たった一日会えないだけで、何もする気が起きなくて、ご、ご飯も食べられないし…その、く、暗いことばっかり考えてウジウジして、なんかキモチワルイんです」
言いづらそうにモゴモゴとそんなことを言いながら、鷹城を窺うように恐る恐る上目遣いで見てくるそのひとは、自分がどんな可愛いことを言って、どんだけ可愛い顔をして、恋人を煽りまくっているのか、わかっているのだろうか?
「鷹城さんは仕事で忙しくしてるのに、仕事にまで、しっ…嫉妬しちゃって、貴方を独り占めしたくて、誰にも渡したくなくて、仕事にも盗られたくなくて、俺、俺、こんな馬鹿みたいなこと考えちゃって、貴方はすっごい才能があって、世の中の人がみんな貴方の曲を待ってて、全然住む世界が違うひとで、好きって言って貰えるだけで奇跡なのに、俺がそんなめんどくさいこと考えたらダメなの、わかってるのに…っ」
言いながらしゃくりあげ始めた陽太に、鷹城は混乱する。
……はい?どこらへんが重いって?
めちゃくちゃ可愛いだけじゃね?
何、なんなの、この可愛いイキモノ?
飽きるほど言ってるし、もういい加減響かないかもしれないけど、でももうそうとしか思えないから、も一回言ってもいい?
君は本物の天使なの?
「陽太。そんなの、大好きな相手のことなら、思って当然のキモチだと思うけど?」
その程度、ちっとも重くないって言うか、もっと言って欲しいんだけど?
そんな可愛いワガママ、どこが重いの?
俺に言わせたら、もっともっと重くなって欲しいよ?
そんなの、まだまだ、君の背中に生えてる羽根よりも軽いよ?
「俺の全部が君のモノだよ?欲しがる分だけ全部あげるから、もっと欲しがって?」
重いってことがどういうことか、君は何にもわかってないだろ?
重いっていうのは、俺みたいな人間のことだよ?
俺がいつもどんなこと考えてるかを知ったら、君は俺を怖がって逃げ出すだろうから、絶対に教えないけどね?
君がもっともっと俺を欲しがって、俺なしでは生きていけなくなって欲しいんだよ、本気で。
一秒でも俺と離れていられないぐらい、悪いクスリの中毒みたいに、俺に溺れてくれたらいいのに。
「君が仕事しないでって言うなら、俺は今すぐでも無職になるよ?君だけの男になるよ?でも、君は俺の作る曲が聴きたいんだろ?それも、オリブルの演奏で」
だから、俺は仕事してる。
「世の中の人とか、君に比べたらどーでもいいし、俺の作る曲は全部君に聴かせるためにだけ作ってる」
オリブルだって、俺の曲を最も効果的に君に聴かせるための媒体の一つにすぎないから。
俺の言う、俺の全部が君のモノって、そーゆーことだよ?
「住む世界が違う?そんなの、力ずくで同じにしちゃうから…他にどんな世界があるのか知らねえけど、君と俺だけ、二人だけの世界を作るから」
だから、そんな可愛い泣き顔、俺のいないところでしないで?
てゆうか、もう、次からは君がついてこれないときは、二度と家を空けたりしないから。
君が一人にして欲しいって言っても、してあげられない。
鷹城の唇が、そんな傲慢な睦言を囁きながら、陽太の耳の裏にチュッとキスを落とす。
そのまま、髪の生え際の、そのひとの体臭を強く感じられる場所の匂いをクン、と嗅いだ。
「やっ、鷹城さんっ、俺、昨日シャワー浴びてないからクサイですっ…」
鷹城の甘い甘い愛の言葉と、その包み込んでくれる体温に、やっと気持ちが落ち着いてきて。
自分で自分が嫌になるくらい重たいキモチを、全然重くなんてない、と軽々受け止めてくれることに、負のスパイラルに落ち込んでいた気持ちをあっけなく掬い上げて貰って。
感情を爆発させて泣いたせいか、少しずつ澱のように溜まっていっていたストレスがゆっくりと解れて、本来の陽太の健康な思考回路が戻ってきつつある。
「君が臭いなんてことあるわけないし。3日ぐらい風呂に入らなくてちょうどいいぐらいだよ?」
「そんなわけないです、から!」
軽い抵抗なんてものともせず、鷹城はそのまま唇を首筋に下ろしていきかけて、ふと動きを止めた。
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