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エピローグ
夏休みに入ったら二週間ぐらい東京帰ることにしたいんだけど、と鷹城に言われ、陽太は店長にお願いして少し長めに休みを貰うことにした。
鷹城はその二週間で、オリブルの新しいアルバムのレコーディングを済ませてしまおう、と考えているようだ。
それ以外にも、東京にいないとできない仕事を、陽太も連れて帰れるこの機会にまとめてこなしてしまうつもりだったりもする。
「栗橋に会いたい?会いたいなら、会えるよう段取るけど?」
そう、からかうように訊かれて、陽太は少し唇を尖らせた。
「どうしてるかな、とは気になりますけど」
鷹城さんは、俺が栗橋君に会ってもヤキモチ妬いたりしません?絶対妬きますよね?
「その顔、メチャクチャ可愛い…あーもー、他の男の話でそんな顔すんの、反則じゃね?」
「なんですか、もう!貴方がふった話なのに」
陽太は更に、鷹城を軽く睨む。
しかし、相手はますますにやけた顔でデレるだけだ。
「陽太は怒った顔もカーワイイな」
この男にかかると、なんでもかんでもこの調子だから、怒るのも馬鹿らしくなってしまう。
だから、ほんの少し意趣返しをしたくなって、陽太はチラリと上目遣いで恋人を見上げた。
「栗橋君に、会ってみたい、かも」
「What?!」
途端に、鷹城が叫んだ。
陽太はツーンと顎を上げて、更に言う。
「栗橋君と会ったら、LINE交換して貰いますね…次からも、会うのに一々鷹城さんに段取りして貰わなきゃいけないの、悪いですから」
「No way!That’s out of the question!!ダメダメ、絶対ダメっ!」
叫びながら、鷹城の腕が陽太を見えない何かから奪い取るように抱き寄せる。
陽太は鷹城の腕と胸の間で窒息しそうになり、ブンブンと頭を振って隙間からなんとか顔を出した。
「もう、冗談ですよ、鷹城さんがふざけるからです…栗橋君がどうしてるかは気になるけど、彼の想いには応えられない以上、会わないほうが彼のためだろうし」
きっと彼なら、音楽で成功できる。
そうしたら、綺麗なひとや可愛い子にも、たくさん出逢うはずだから。
「俺のことなんて、会わないうちにすぐに記憶の奥に消えていきますよ」
陽太はそう言って、鷹城に笑いかけた。
「どんな美人も口説けるのに、俺なんかをスキって言うのなんて、鷹城さんぐらい変なひとじゃないとあり得ないです」
陽太は自分のことを何にもわかってない。
鷹城は、陽太の笑顔にクラクラしながら思う。
でも、それでいい。
俺だけが陽太を溺愛してると思っていて欲しい。
その笑顔が、見返りを求めない打算のない優しさが、万人を魅了してるだなんて教えてあげない。
「栗橋に会うかどうかは別にして、夏休みは楽しいことが盛り盛りだな」
オリブルが出る夏フェスは全部押さえたしな?
「そんなの、鷹城さんといられるなら、どこにいてもいつも楽しいです」
もちろん、フェスとかもめっちゃ楽しみですけど。
「陽太、そーゆーとこ、ホント、天然で天使すぎるからもー」
そんなふうにじゃれる二人の、もうすぐそこに、キラキラと輝く夏休みがせまってきているのだった。
fin.
2019.07.09
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