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「むしろ、今まで君に言い寄ってくる男がいなかったほうが奇跡だったんだろうけど」 帰宅して、手を洗っている背後から覆い被さるように抱きついてくる鷹城は、先程栗橋に見せた余裕の態度はどこへやら、独占欲丸出しでぴったり陽太に貼りついて離れない。 「こんなに可愛くて、色気ムンムンで、歩く凶器みたいなんだから」 「色気ムンムンてなんですか、鷹城さんも手洗って下さい、もう」 「んー、じゃあ、陽太と一緒に洗う」 そう言いながら、既に泡を流し始めていた陽太の手の上から、再び泡をてんこ盛りにして包み込むようにした。 「ああっ、もう、鷹城さん…俺もう流してるとこなんですよ!」 「陽太の手、ちっちゃくて可愛い……うーん、泡ってなんかエロいよな」 ぬるぬるして、ほら、こうやって手擦り合わせてると、ちょっとやらしい気分になってこねえ? 言いながら、鷹城はヌルリと陽太の指の間に自分の指を割り込ませて擦り付けた。 ヌルヌルとした感触に擦られながら、耳許で煽るようなことを囁かれると、確かに少し背筋にゾクリと何かが走る。 同時に、グッと鷹城の腰がそんな陽太の背中に押し付けられた。 正確にはたぶん、お尻に押し付けたかったのだろうけれど、身長差のせいでそうなってしまったのだ。 「ひゃっ……たっ、鷹城さんっ…!」 熱を持って硬くなったソレをゴリゴリ押し付けられて、陽太はひっくり返った声を上げる。 「陽太、このままお風呂行こ?手だけじゃなくて、全身洗わせて?」 トドメ、と言わんばかりに、甘い吐息混じりに耳許に低く囁く鷹城は、完全にソッチ方向の臨戦体制だ。 こうなるともう、陽太のダメ、という制止なんてほとんど効かない。 まるで小さな子どもでも抱き上げるかのように、脇の下に手を入れられ、ひょいと持ち上げられる。 服のまま浴室に運ばれてしまって、あっという間にシャワーのお湯で頭からびしょ濡れにされた。 「たっ鷹城さん、服……」 「うん、My sweet honey、そんな焦らなくても、今脱がせるから」 言いながら、彼はうっとりと陽太の肌に濡れて貼りつく洋服を眺める。 「すげぇやらしい眺め…ほら、ココ、透けてる」 ツン、と胸元に浮き出た突起をつつかれて、陽太は、思わず女子みたいに腕で胸を隠した。 「鷹城さんっ」 「怒んないで、My Angel…君が可愛くて可愛くて、自分が少しCrazyな(イカれてる)のはわかってるから」 だめ押しのように甘く掠れた声で、そんなことを耳許に囁いてくるのは反則だ。 そうでなくても、鷹城の声は独特の色気がある。 「陽太、隠さないで、俺に全部見せて?」 ちゅっ、と首筋に唇を落とされて。 濡れて貼り付いたシャツを少しずつ剥ぎ取られていく。 露になる肌に次々唇を走らせながら、鷹城は尚も囁いた。 「ああ、本当に可愛くて堪んない…君が与えてくれんなら、嫉妬さえも中毒になりそうで怖い」 そーゆー嫉妬のせいだと思うけど、少し軋んだ不協和音がさっきから鳴り止まないんだ。 だから、Sweetie、その甘い甘い身体を味わせて? そうして、君の甘い甘い極上の音色で、この不協和音を上書きしてくれる? 首筋から、鎖骨、そして胸骨を辿るように唇が下りていく。 濡れたシャツがやっと全部剥ぎ取られて、足元に落ちる頃には、陽太の息は完全に乱れていた。 「あっ…ん」 胸の尖りに噛みつくように吸い付かれて、思わず漏らした声は、シャワーの水音にも全ては掻き消されずに浴室の中に反響する。 「ああ、本当に君は、どこもかしこも完璧に甘くて可愛い俺の天使だ」 鷹城の睦言がやたらに気障で甘ったるいのはいつものことだけれども。 今日はいつもにも増して、その糖度が半端ない気がする。 本人の言うとおり、少なからずヤキモチを妬いてくれているのかもしれない。 そう思うと、自分よりもずっと歳上で大人なはずの恋人が、酷く可愛くいとおしく感じる。 与えられる快楽に溺れていきながら、陽太はその首にそっと腕を回した。 抱きしめるというよりは、必死にしがみついているというのが正しい表現になってしまうかもしれないけれど。 それでも、そのひとを抱きしめて安心させてあげたかったから。 陽太も揺らぎなく鷹城だけを愛してる、と伝えたくて。 お互いの吐息がどこか焦ったように絡み合う。 鷹城はいつも、これ以上ないぐらい前戯に時間をかける。 体格差がありすぎるほどあって、陽太の身体に負担を強いていることをわかっているのだ。 そうでなくても男同士で、受け入れるための身体ではないのに。 それなのに、今日は、少し急いているように感じられた。 「やっ、まだ、ムリ…たかじょ、さ……あっ」 ローションを塗り込める程度に指で少し掻き回されただけの、ほぐしきっていない蕾の淵にぐいっと熱いものを押し当てられて、陽太の背中が震える。 「Sorry,boo,I can’t control myself,because you are so hot.」 酷く興奮してくると、鷹城はその唇を漏れる言葉の半分ぐらいが英語になる。 余裕をもっているとき、陽太を煽るための睦言は普通に日本語を使っているので、たぶん無意識なんだろう。 断片的に意味がわかる単語もあれば、よくわからない単語もある。 そもそも、鷹城がそうやって我を忘れるほど夢中になる頃には、たいてい陽太は日本語だってほとんど意味を理解できずに耳の上を滑っていくだけの状態になっているのだ。 愛してる、好きだ、可愛い、色っぽい、最高だ、気持ちいい…そんなようなことをひたすらに呟いているのはなんとなくわかるけれども。 「あっ、あ…ア、あ、ああっ!」 まだ幾分キツい状態で、鷹城の熱が押し入ってきて。 陽太の唇から、悲鳴に似た喘ぎが零れた。 鷹城のソレは、その日本人離れした身体の大きさに遜色ないサイズだ。 十分に解されていても、小柄な陽太はいつもその圧倒的な存在感にお尻が壊れるのでは、と怖くなるほどの。 鷹城は、浅い位置で一旦動きを止めた。 その陽太にとっては凶器みたいな彼自身を、根元まで全部埋めたことはまだない。 深い位置にまで入り込むことを陽太が怖がるし、鷹城も愛しいひとを壊してしまいそうで怖いからだ。 だから、どんなに理性が飛びそうなときでも、それだけは自制している。 人の身体は意外と無茶ができることはわかっている。 いくら規格外とは言っても、それはやはり人間のものだから、程度はある。 拳を肘までツッコむといった鬼畜みたいな行為(フィストファック)ができてしまう輩もいることを考えれば、たぶん慣らしていけばできなくはないのだろうけれども。 それでも、愛しい相手に今以上の無理を強いるのは、鷹城にはできない。 半ばまでしか挿れてなくても、お互いに少し無理がある状態だ。 それでも、陽太は、愛しい相手と繋がれることに言い知れぬ幸福感を覚える。 そのひとの熱を身体の内で感じられる歓びが、キツさや苦しさ、痛みを凌駕して、新たな快感を呼び覚ます。 もちろん、その狭い器官をギリギリまで押し拡げて収まっているソレが、入っているだけで陽太の内部のイイトコロを圧迫しまくっているという物理的な気持ちよさが加わっているのもあるが。 「んっ…ンン……たかじょ、さ、キモチ、い…?」 フーフーと荒い息を吐きながらも、鷹城のことを気遣ってくれる、そのひとは本当に天使のようだ。 「最高だ、ああ…陽太、無理させて、ごめん」 チュッ、と唇に軽くキスをする。 離れた唇から、はあ、とため息のように漏れる息が熱くて、陽太にも、鷹城もちゃんと気持ちいいのだ、と感じることができた。 「もう少し、奥、挿れてい?」 「ん……ゆっくり、なら」 ズッ、と熱量のあるソレが、身体の奥をゆっくり拓いていく感触。 陽太は両腿を戦慄かせる。 膝が崩れ落ちて座り込みそうになる腰を、ガシリと片腕で支えられた。 「っ……あ、ん…」 「キツい?」 鷹城の大きな手のひらがそっと前に回って、緩く勃ち上がった陽太自身をそっとくるんだ。 「陽太、陽太」 耳朶を甘く噛まれて、掠れた声で名前を何度も囁かれる。 その声に合わせて、鷹城はゆっくりと腰を動かし始めた。 同時に、手のひらでくるんだ陽太のソレも、優しく扱く。 内壁を擦り上げられる刺激と自身への緩やかな愛撫に、陽太はひたすら甘い鳴き声を上げることしかできなくなる。 その仰け反った喉に幾つもキスを降らせながら、鷹城は健気な恋人の身体を貪った。 彼の愛しい天使は、可愛くて健気なだけではない。 鷹城の奔放さや奇抜さ、突出した才能があるが故にどこか突き抜けている個性をも、何でもない当たり前のことのように受け入れてくれる公平さと懐の深さを持ち合わせている。 出逢った当初から、髪の色や瞳の色、そんな些細な違いで偏見を持ったりしなかったし、困っている人にはすんなり手を差し伸べられる優しさと素直さも、正しくないと思うことにはきっぱりと断る勇気も、ちゃんと持っている。 そういうひとは他にもたくさんいるのかもしれない。 それでも、鷹城の心を揺さぶって昂らせるのは、このひとだけだ。 あまりにも固執しすぎて、自分でもCrazyだと思うけれども。 だって、音が溢れてくるのだ。 触れるだけで、捉えきれないほどのメロディが、洪水のように後から後から。 このひとは、誰にも渡さないし、どこにもいかせない。 見つけたときから、鷹城のものだ。 生涯自分の隣にいて貰う、そう決めている。 陽太はまだ二十歳にもなっていない。 もしかしたら、鷹城ではないもっと別の誰かが、本来の生涯の相手なのかもしれない。 ちゃんと普通に可愛らしい女の子と、陽太に似た天使のような子どもを育てる未来のほうが、正しいのかもしれない。 それでも。 どんな相手にでも、渡すつもりはない。 もちろん、あの生意気な高校生にも、だ。
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