NYサイボーグ・ソルジャー・ブルース

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”結局、俺はいったい何をしているのか”  その降り出したニューヨークの雪は、けして優しくなかった。  その中で、ベガがうっそりと、ただ一人たつ。  3メートルにも届こうかという巨体は、人間よりも巨熊グリズリーにも近いだろう。彼が、その巨体をもてあましているのは間違いない。  急の降雪で、人たちは蜘蛛の子を散らすように駆け出し、近くのビルのテナントやサブウェイの中に逃げ込んだ。  その中で、ベガは、うっそりと立っている。  その姿は、異様。西洋の鎧武者のようであり、インディアンの戦士のようであり、また、インカの呪術師の様でもあった。それらのどれかのようでもあり、どれともまったく違っている。その道の専門家は、そういうに違いない。  むしろ、そのまま固まればNYの美術館に展示されている古代の彫像に紛れ込めるに違いない。  その鎧は金属のようであり、陶器のそれのようでもあった。重くて当たり前のはずだが、それらは、色だけが金属質で、有機物のようなやわらかさを兼ね備えているように見えなくもない。どこか、ボディペインティングでもしているのではないかというしなやかさを感じさせた。  そう、全てが違和感。  それでいて、見るものに共通する認識は、彼はアメコミのヒーローのコスプレを”生業”にしている大道芸人に違いないと思うことだった。  ”遥かな大宇宙を飛び越えてアンドロメダ銀河からやってきた大連盟のサイボーグ戦士”という”真実の経歴”も、所詮は、大道芸人の”設定”としか、理解されていない。  彼ら、このアメリカの中でも最先端を行く、生き馬の目を抜くと言われるNYの住民にとっても、まだ、月旅行はリアルではなかったからだ。  超巨大な燃料タンクの先に、鼻くそのような”宇宙船”をくくりつけて、打ち上げる。そうしなければ、彼らの原始的技術では、大気と重力の底から鼻先を出すことさえ出来ないのだから、しかたがない。  彼らが愛した暗殺されたリーダーが、かつて”この10年紀の末までに、人間を月に立たせる”と宣言したことから、始まった”宇宙開発計画”の先に、なんとか生み出した、あまりに原始的な技術とさえいえない技術。  その気になれば、ベガは、この瞬間にも改造された機械仕掛けの肉体の機能で月まで行くことが出来る。亜空間を通れば、隣の恒星くらいなら行ける。この体で、だ。
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