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多数の乗員を要する通常艦隊作戦は、その故に参加する乗員の”意識”を呼んだ幻魔に容易に予知され、迎撃される運命にあった。
超遠距離からの遠隔地からのミサイルによる核飽和攻撃は、さすがの幻魔にも予知が出来ず、多少の効果があっても、幻魔の念力バリアーに阻止され、標的への命中精度は保障できなかったのである。
幻魔との戦い、ベガは確かに歴戦の勇士ではあったが、むしろ形勢不利の”大連盟軍”の中では、200年間、しぶとく生き延びた結果といわざるを得ない。
もしかしたら、大連盟はベガのその”しぶとい運命”にこそ作戦の成功を賭けたのかもしれない。
そうして、数十隻の老朽宇宙戦艦に最小限度の兵士で騙し騙ししながら、運用する作戦・・。
戦艦を事実上のミサイルにして”幻魔大王”の体内、あるいはその近傍で自爆させる、心中特攻。
もちろん、その突入起動を決めた時点で搭載した小型救命艇に分乗して脱出。
後方から来る回収船で収容し、本土・・というか大連盟軍の支配地域に帰還することにはなっていたが。ベガは、自分ひとりが老朽宇宙戦艦団を引率して、”幻魔大王”体内にまで突っ込んで破壊することを覚悟しないと、作戦は成就しないとすでに判断していた。
これが、戦士ベガの有終の美だ。
二百年、長かった。
大部分は星から星への航海。そして、厳しい戦闘。
時に勝ち、時にその星の住人を避難させ、恒星ごと幻魔を葬る撤収作戦で。
みんなが、死んでいく。
その中で、或る意味、ベガだけが奇跡的に生き延びてきたのだ。
”もう、いいだろう”
華々しく死ねる、
”幻魔大王”を道連れというのなら、これほどの花道はない。
誰にも言わなかったが、すでにそのとき、ベガは死ぬ気だった。
別の星域で陽動作戦を提案し、その隙にベガたちは、”幻魔大王”を急襲した。
ベガの見た”幻魔大王”は、もはや生物の態をなしていなかった。
暗黒波動の塊。暗黒星雲よりも暗く、全てを急襲するブラックホールよりも邪悪。人の絶望と憎悪、哄笑と悲嘆、恐怖と貪欲を呼び起こし、最終的に心のバランスを失わせ、狂気の海に沈める、怪物。
”一人”ではなく、無数の化け物の集合体であると、考えられていた。
しかし、幻魔大王の目撃例は、何万年もの幻魔大戦にあってもまだ少ない。
幻魔大王を見たものは少なくないだろうが、生き延びてそれを報告するできるものはあまりに少数であったからだ。
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