22/22
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
+++ 「華取翁は大和姫レベルの行動力だからなあ」 全は斎月のことを、「大和姫」と呼んでいる。 いちいち旧い表現のが好きなようだ。 在義と共に彼の病室に行ったことだけ話すと、全は大きく肯いた。 なんか知らんが勝手に納得してんじゃねえよ。 「それで――感傷に浸るとか、なかったわけか」 「全然。その辺りの欠落、思い知らされた」 自分のための涙など、考えたこともなかった。 出生を知った咲桜を家に呼んだ折、確かに自分は泣いていた。 涙にぬれる咲桜の頬を捉えて、自分も。 ……でもそれは、自分のための涙なんかではなかった。 感情が咲桜にしか動かない流夜は、咲桜の抱えた傷を想って泣いていた。 ごめん、咲桜。自分が咲桜の傍にいなかったら、こんな辛い思いをさせることもなかったのに。 想いはいつも、咲桜のためにしか動かない。 「……天科サン。これから少しここを離れるから、あんたもここに来んなよ。相手してらんねえ」 「また放浪か? 今度はどこの国だ?」 「放浪じゃねえよ。……ちょっとした、試合終了」
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!