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水曜日
「死ねよ、お前」
尖った言葉が背中に刺さる。
細くて鋭い棘みたい。体の中にじわじわ食い込む。
教科書をしまおうとしていた手を止めて、わたしはゆっくり後ろを振り向く。
斜め後ろの席で、ふざけ合いながら笑っている男子たち。その中で一番大きな声を上げているのは、瀬戸口永遠だ。
永遠と書いて「とわ」。アニメの主人公みたいなカッコいい名前のくせに、永遠はめちゃくちゃ口が悪い。
ウザい、キモい、死ね――永遠の口から飛び出す言葉は、たとえわたしに向けられていなくても、聞こえるだけでひりひりする。
だからわたしはあいつが嫌い。大嫌い。
小学生のころはちょっと騒がしいくらいの、よくいるおバカな男の子だったのに、中学に入ってあいつは変わった。
ひとを傷つける言葉を、平気で使うようになった。
一年のときも二年になってからも同じクラス。家も近所。親も知り合い。サイアク。
そんなことをぐるぐる考えていたら、机の上に腰かけている永遠がこっちを向いた。
あわてて目をそらそうとしたわたしより早く、永遠の口が歪に開く。
「なに見てんだよ、蝶子」
「……べつに」
冷たい目でわたしを睨んだ永遠が、大げさなほど首を振って顔をそむける。
「うぜぇんだよ、お前。こっち見んな」
教室のざわめきの中、永遠の放った棘がわたしに刺さる。
わたしは前を向き、持っていた教科書を乱暴にリュックの中に押し込んだ。
わたしだってあんたのことなんか、大っ嫌いだよ。
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