金曜日

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 今日も茜を誘って学校に行き、ただじいっと授業を受ける。  あと五時間、あと四時間、あと三時間……心の中でカウントダウンしながらノートをとる。  騒がしい教室でお弁当を食べて、持ってきた文庫本を読むふりをしながら、長い昼休みをやり過ごす。  もうすぐ午後の授業がはじまる。はやく、学校終わらないかな。もう帰りたい。 「キモいんだよ、お前! さっさと死ねよ!」  ちくんと背中に棘が刺さった。  文庫本を持つ手が止まる。  また永遠だ。誰かに向かって言っている。  なんでだろう。なんであいつの声だけ、こんなに反応してしまうんだろう。  そっと斜め後ろを振り返る。机の上に腰かけて、数人の男子と一緒にいる永遠と目が合った。 「こっち見んなって言っただろ?」  あんただって見てるじゃん。 「うぜぇんだよ、蝶子。死ねっ」  ガタンっと椅子と机がぶつかる音がした。それはわたしが立ち上がった音だった。  周りの視線がわたしに集まる。だけどわたしは背中を丸めず、そのまま永遠のいるところへ歩く。 「な、なんだよ?」  一瞬ひるんだ永遠の、白いシャツの襟元をぐっとつかみ上げた。 「なんでそんなこと言うのよ!」  あまりにも大きなわたしの声に、そばにいた男子たちが驚いた顔をする。だけど一番驚いたのはわたしだ。  でも永遠の襟元をつかんだまま、わたしの言葉は止まらない。 「そんなこと言ったら、相手が傷つくってわかんないの!」  永遠はわたしの顔を見つめて、固まっている。 「あんたには心がないんだ!」  握った手に力を込め、永遠の体を思いっきり突き飛ばす。永遠はバランスを崩して、机の上から転げ落ちた。  教室の中が凍りついたように静まり返る。周りの男子も、床にしりもちをついた永遠も、たぶんクラスにいるみんなも、わたしのことを見ている。  わたしはぎゅっと唇を結ぶと、そのまま教室を飛び出した。  次の授業が始まるチャイムが聞こえたけれど、廊下を走って靴を履いて、荷物も持たずに家まで駆け抜けた。
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