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金曜日
「おはよう」
「おはよ、蝶子。早く食べないと遅刻するよ」
翌朝、制服を着て台所に入ったわたしにお母さんが言う。
お母さんはガチャガチャと大きな音を立てながら、食器を洗っている。
もっと静かに洗えないのかな。お皿割れるよ。
そんなことを考えながら、居間を見る。
昨日のごちゃごちゃは嘘のようにスッキリ片付いていて、お父さんがネクタイを締めながらテレビを観ていた。
「おっ?」
なにかに気づいたお父さんが、お母さんを呼ぶ。
「おい、ちょっと観てみろよ。これ、瀬戸口さんちの奥さんじゃないか?」
お母さんが水道をキュッと止めて、「なになに?」と居間に行く。
それより昨日のことはどうなったんだろう。
夜遅くまで、お父さんとお母さんが話していたのを知っている。たぶんきっと、おばあちゃんの話。
お父さんもお母さんも、それについてなにも言わない。
わたしには関係ないって思っているの? わたしが子どもだから?
「あら、ほんとだ。ちょっと蝶子! 永遠くんのお母さんがテレビに出てるよ!」
わたしは椅子に座ったまま首だけ動かし、居間のテレビを観たけど、正直そんなことどうでもよかった。
お母さんがリモコンでボリュームを上げる。
永遠のお母さんは「夫婦円満と子育ての関係」とかいう話を、テレビの中ではきはきとしゃべっていた。
「いいよねぇ……好きなことができるひとは。キラキラしてて」
お母さんがうらやましそうにそう言って、お父さんは「いってくるよ」と逃げるように家を出て行く。
わたしはひとりでご飯を食べる。なんだか全然味がしない。お母さんはまだテレビを観ている。
「ごちそうさま」
箸を置くと立ち上がって、わたしは台所を出た。
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