序幕

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序幕

 人里から遠く離れた山奥のそのまた奥に、ひっそりと集落を構えたとある一族の村があった。そこには澄んだ空に山そして水源があり、神霊の力が宿っているかのように四季折々でその表情を鮮やかに変えた。  俺はその中でも星空を見上げるのが結構好きだった。  そうして現実逃避でもするかのようにまたは走馬灯を見るかのように意識を落としていた俺は、気が付くともう二度と会えないと思っていた相手に抱えられていた。  もう春は目の前と言っても川の水は凍えるように冷たい。けれど、その冷たさや打ち付けたであろう全身の痛みも最早感じることはなく、ただただこの身に降り注ぐ優しい雨と包み込む温もりを感じられるだけだった。  二人とも全身ずぶ濡れで尚且つ力の入らない俺を相当重いだろうに必死で川から離そうと運んだそいつに、体調は大丈夫なのかとか、心配かけて悪いとか声をかけたいにも関わらず俺の喉は浅く荒く不規則に息を吐くだけだった。  そいつも何か俺に伝えようと必死に声を張り上げているようだが、もうよく聞こえないし俺の声も届かない。  俺は力を振り絞って、目の前で苦悶(くもん)に満ちた表情で泣いている優しい神に手を伸ばす。例え声が出なくとも伝わってほしい一心で―― なぁ、泣くな… 泣くなよ俺はただ、あんたの笑う顔が見たかっただけだったんだ…
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