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放課後の鈴恋歴史科学高校。古美術室。
二年生の若槻涼夜は、勢い良くドアを開いて、駆け込む。
室内で専門書を読む、二人の部員の視線が集まる涼夜の声は、うれしそうに裏返っていた。
「校内メッセンジャーにて連絡あり! 安藤先生、今日部活来ないって」
紺色のジャージをこよなく愛する男性教員、安藤直輝。古美術部、部活顧問だ。
先週から鈴恋歴史科学高校、略称・鈴高では、屋内プールの循環ポンプが故障した。
例年五月から始まる、水泳の授業は、急遽延期となっていた。
泳ぎに行く絶好のチャンス、と思った三人は、色めき立つ。古美術準備室には、部活動で作った小型ボートが飾ってある。
部活動で製作したばかりのボートだ。まだキーのパスワードは、設定されていない。
昨日完成して、試運転はまだなのだが、ボートの発進準備を三人は始める。
二年女子の日向ハルナ。活発な性格で校内でも有名だ。ボートに乗り込み、エンジンを馴れた手つきで始動している。
3年女子の九条舞舞は、少し心配顔で、ボートの傍らで、思案顔をしてしまう。
古美術部長でもあり、舞舞は、ためらいを隠せない。
ハルナが嬉々として皆に告げた。
「すぐに砂浜まで行って、六時までに戻ればバレない、バレないって、舞華ちゃん、心配ないって」
九条舞華は三年生だ。部活で、後輩二人に自分から、「部活動では、タメで話して」と。今年の四月にお願いした。
最初は後輩二人は、恐る恐る「さん」をつけて呼んでいた。
しかし、一か月たった今では、すっかり同級生のような“ちゃん扱い”になってしまった。
舞華としては、「タメ口」は希望した。そして、「さん」か「先輩」をつけて、呼んでくれるのを、期待していた。
しかし、「ちゃん」で、呼ばれるようになってしまった。自身の言葉足らずが生んだ結果、また、親しまれている、と割り切っている。
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