2話 ゲームは買うまでが楽しい

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2話 ゲームは買うまでが楽しい

「いらっしゃいませ〜」  あれから、俺は高校に進学してすぐ家の近くのスーパーでアルバイトを始めた。  時給もまあまあよく、近いので即決した。  なぜ、アルバイトをこんなに早くから始めたかというと欲しいゲームがあるからだ。  子供じみた理由だと思うかもしれないし、ゲームくらい買えるだろと思う人もいるかもしれない、だがそのゲームの値段がかなり高く10万円するゲーム機で高校生にはなかなか手が出しづらい。それに男なんていつまでも子供なのである。 「すみませんお豆腐どこにあるかわかりますか?」 「あ、豆腐ですね。こちらになります〜」  そして、今日ついにそれを買う資金が集まったのだ。10万貯めるのにかなり苦労した。欲しいものがあるって言ってもあんまり働きたくないから週2でなんとか手を打ってもらって…… 「♪♪♪♪」  営業の終了の音楽が店内に鳴り響く。  すぐに着替えをすませ俺はよく行くゲームショップに軽快に自転車を走らせる。  ゲームショップの入り口を抜けレジに向かう。  なぜいきなりレジに向かうか、それは今回買うゲーム機は大きいのでその場では持って帰れない、一旦注文票に必要事項を記入し金額を払ってから後日家に直接届けてもらうシステムになっている。 「すいませーん」  閉店間際だったので、お客さんがほかにいなかった。まぁ田舎のゲームショップという理由の方が強いかもしれんけど…… 「いらっしゃいませ」 と一人の店員さんが裏から出てきた。 「あの今日発売の」 「あ、はいCRですね」  こちらの言うことを読んでいたかのように店員さんは用紙とペンを手際よく出した。 「こちらの用紙にご記入ください」 「あ、ありがとうございます」  俺は用紙に必要事項を記入していく。  CR <Capsule Reading>の略で、2100年初頭に日本のメーカーが満を持して発売したwhole body型ゲーム機だ。今回はその第2弾だ。  昔流行った、酸素カプセルみたいな形状をしていて、人一人入れるくらいの大きさがある。なので、その場で持ち帰ることができない。  whole body型 その名の通り全身をスキャンしてそのままアバターを作る仕様で、第1弾では、五感を外装や内装に組み込んだものだったが、第2弾では五感+体の組織まで組み込まれたものになっている。  第1弾が出た当初はゲームとしてはとんでもない値段だったので、持っている人が少なかったが、徐々に今の値段あたりまで落ち着いたので最近では結構主流なものになっている。  その中でもCRはカプセル型で見た目もかっこよく、値段もそこそこなの、初めて買うなら無難なところである。それに最初の会社なので信頼もある。 「書き終わりました」  俺はペンを置き、用紙を店員さんに渡す。  店員さんは用紙を一通り眺めたら、用紙をバインダーに挟む。 「お値段が税込102700円になります」  現金で103000円を払う。 「お釣り3百円になります」 「こちら控えになりますので無くさずお持ちください」 「どうも」  店を出る。 「ありがとうございました〜」  もう辺りは真っ暗で街灯も数本しか光ってなくなんか嫌な感じを覚えた、この辺りは市街地から少し外れたところで田畑があるような場所だ街灯も少ない。  自転車を走らせ数分すると宝くじ売り場が見えてくる。  もう夜10時を廻ってるのにやってるなんて珍しいと思っていると、ふとさっきもらったお釣りを思い出す。 「そういえばさっきのお釣り3百円だったなぁ。ちょうどいいから1枚買ってみるか」  宝くじ売り場の近くに自転車を止め、売り場へ向かう。 「すみませーん」  少しすると裏から40代半ばの女性の店員が出てくる。 「ごめんなさいねぇ。この時間帯人が滅多に来ないから」 「1枚買いたいんですけど」 「どちらの宝くじにします?」 「うーん」  宝くじは買うのが初めてでどれがいいのかさっぱりわからない。  まあ1枚しか買わないからなんでもいいやと思い。 「じゃあ、1等の当選金額が高いやつでお願いします」 「わかりました、300円になります」  お金を払うと、店員さんは窓口から1枚宝くじを手渡す。 「当選日は来月になりますので、ネットもしくは宝くじ売り場でお確かめください」 「分かりました」  昔は宝くじはこういった売り場で買うのが主流だったらしいが、今の宝くじはほとんどネットでやるのが普通になっていて、こうやって店を出しているところはもうほとんど無い。  自転車を再び漕ぎ出し帰途に着く。  途中チェーンが外れて、危うく怪我をするところだった。  自転車変えたい…… ♢ 「いらっしゃいませ〜」  あれから3日たった、ゲーム機が届くのは2週間後なので気長に待っているところである。  今日は土曜日、バイトは昼までで今日はCRのカセットをけんと一緒に買いに行く予定だ。けんも俺と同じくらいの日に買っているので届くのは2週間くらいかかるそうだ。  ちなみに、けんも俺と同じくらいゲームが好きで、好きなゲームだとずっとやってるからよく親に怒られてるのを聞いている。  なぜって聞けるかって? そりゃ家隣同士だからね。  うちの母親とけんの母親は幼馴染だったらしく、家を買った時たまたま隣同士だったらしい。  どんな偶然だよと俺は思ったが、中学に入った頃にはこんなこともあるだろうと思えるようになっていたけど…… 「そろそろ上がりなよ〜」  店長が、声をかけてくる。 「はーい。この作業終わったら上がります」  ちなみに俺の仕事はスーパーの中の惣菜売り場で、今は揚げ物をパックに詰めてシールを張っている。  作業を終わらせ、タイムカードをスキャンし待ち合わせの場所まで自転車を走らす。 ♢ 「お、時間ぴったしだねぇ」 「すまんちょっと遅れた」  意外と作業を終えるのに時間を取られ待ち合わせ時間ギリギリになってしまった。 「最初は昼ごはんからにする?」 「そうだな、お腹空いてるし」  俺たちは近くのファミレスで食事を済ませ、俺がCRを買ったあのゲームショップまで自転車を走らせる。  てか、この辺りではあそこが1番近いゲームショップがそこになる。  お店に入りそのゲームが売られているところに足を運ぶ。  有名企業が出したゲームや人気作品は表に堂々と構えているが、俺らが欲しているゲームはその裏側に置いてある。  「これだね」  「OOPARTSオンライン」  CDMMORPG<Cell Dive Massively Multiplayer Online Role-Playing Game>  OOPARTS<オーパーツ>  CRを開発した会社が出したゲームで、CR専用オンラインゲームである。  CDMMORPGの中でも、このOOPARTSが凄いのが自由度の高さだ。  ほとんど現実世界で暮らしているのと相違ないくらい充実していて、現実世界に戻りたく無いといって2週間ゲームに潜り続けて脱水症状で死亡した例もあるくらいだ。  そして、もう1つ、  それは、再現度である。  CRを使った五感で食べ物や飲み物の味や匂いが分かり、第2弾で追加された組織(細胞)。  これはその人の頭から足の指の先までの筋肉量、体重、身長、視力、体内の水分量、心肺機能、肺活量、声帯からの声質など様々な観点からアバターを形成するので、現実世界での自分をゲーム世界で動かすのと同じである。  初期ステータスでは例えば現実で短距離の速い人は、ゲームでも移動速度が早くなったり、逆に長距離が得意だと走るためのスタミナが多かったりと、初期ステータスに人それぞれの値が上乗せされる。 なので、発売当初はみんなジムやランニングに励む人が急増し、たびたびニュースにもなった。  CRを五感だけでアバターを作りたいという人も、初期ステータスにプラス要素がなくなるが対応はしている。  外見はいじることが可能になっているが、大多数の人が自分の顔や身長でアバターを作っていた。(ただルックスはほとんどの人が変えている……)  種族は人間しか無いが、職業はとんでもない種類がある。  別にモンスターを倒し強くなるという道もあるが、ある人は商人になったり、またある人は宿屋や酒場などを経営したり、ガーデニングや、散歩するだけだったりと多種多様である。  一応ストーリー的には世界各地にあるオーパーツアイテムを探し出すというコンセプトだ。 「OOPARTSは2点で税込13720円です」  俺は事前にけんにゲーム1本の値段分は渡していたので、払ってもらう。 「14020円ですね、お釣りの300円になります」 ♢  来た道を自転車で漕いでいると。  以前行った宝くじ売り場が見えてくる、そして思う。そういえばさっきもお釣りは300円だった・・・  だが、今回は俺の金では無いので特に何も言わず漕いでいた、するとけんは宝くじ売り場の前で自転車を止める。 「さっきのお釣りで宝くじ買ってもいいかな?」 「全然いいよ」  こんな偶然あるのかと思いはしたが、ぶっちゃけ小学校の時の方が衝撃が大きすぎてこんなの特に何も感じなくなっていた。  けんが買って来たのは俺の買ったやつではなく、2番目に1等の当選金額が高いやつだった。  ま、そこまでは一緒じゃないか。 「次、どこに行こうか」 「うーん、ゲーム買うのが目的だったからなあー。この後のこと全く考えてなかった」  腕時計を見るとまだ午後3時だった。帰るには、まだ早い。 「カラオケでも行くか?」  俺は提案する。 「お!いいねぇ。久しぶりに行こう」 ♢  歌いすぎた。時刻は午後7時、あの後夜ご飯も食べて以外といい時間になっていた。  俺は家の扉を開ける。 「ただまぁー」  あ、今日妹は習い事でいなかったんだ。  俺は喉が乾いたので、キッチンに向かう。 「おかえりぃー」  透き通った声、そして柔らかな口調で俺を出迎えたのはある1人の人物だった。 「帰ってたんだ。母さん」
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