白狐の愛

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白狐の愛

昔、七四之助という活発な男が、 化け狐の水を見つけた。 水は自分の目的を忘れ、宛もなく人として世界を彷徨う商売女だった。 七四之助は水を郷里の狐の里に連れて行き、水の巫女としての仕事の戻してやった。そして水に教えてやった。 「お前には何世を経ても失われない記憶がある、俺たち人間は、一世限りでそれを忘れちまう。俺たち人間が生きるための妖力は、この星から次第に無くなってしまうだろう。いよいよ俺が弱くなり、もう魂も消えていくとなった時、お前は狐の声で俺を呼べ、とびっきり、甲高で美しい声を、その時までとっておけ、俺は狐に転生するだろう」 七四之助と水の輪廻は、何十回にも及んだ。輪廻とは妖気が星に留まる限り、自分の人生を何十回と繰り返すことだった、水は白狐の巫女であるため、自然そのものの力を糧に生きていた。一方で七四之助は、妖怪と人間の間の子で、妖気がなくては生きられなかった。七四之助は名前を産まれ変わるたびに別にしながら、それでも商売女として人の世を彷徨う水を、狐の里に返してやった。水はそのすべてを覚えていたが、人と白狐の間の子である水は、必ず彷徨い、そして七四之助によってのみ救われた。水は名を変えた七四之助に心から焦がれていたが、その名を口にすることはなかった。出逢うたびに七四之助は力を失い、最初の荒神のような傍若無人な気性は失っていった。それでも、何度忘れようとも、水をまた郷里の狐の里へ還し、祈祷をさせた。この一点を以てのみ、水は七四之助を焦がれていたのである。
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