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平川さん、撲殺されてない事件から二週間。
あのおかしな探偵はまだ、此処に居る――。
盛りは過ぎたが、まだ微かに夏みかんの花の匂いが残る萩の街を、相変わらず、机と椅子が一組しかない桂の事務所から夏巳は見下ろしていた。
此処から夏巳の学校の校舎の先端もちょっとだけ見えるのだが。
妙な気分だ。
ついこの間まで、こんなところから自分の学校を眺める日が来るなんて思いもしなかった。
「夏巳、土曜日出かけないか?」
仕事もないのに、なにをしているのか、そのひとつしかないデスクについてノートパソコンをいじっていた桂が突然、そんなことを言ってきた。
は? と夏巳が振り返ると、
「いや、ちょっと津和野に行ってみようかと思って」
と難しい顔をして、パソコンの画面を見たまま桂は言う。
「……先生、津和野に行っても事件は起きませんよ」
夏巳は冷静にそう言ってみた。
此処は、大手探偵事務所が試験的に作った支社なのだが。
早くに成果を上げないと、支社を出す話自体が消えてしまうらしいのだ。
もちろん、支社長として雇われた桂もクビ。
なので、桂は早く事件を解決して、報酬を得なければと、日々、焦って事件を探している。
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