少女達は花を捨てて

2/2
前へ
/2ページ
次へ
差出人の名はありません。洋紙を丁寧に畳んで、淡い紅色の封筒にしまいました。 「どなたから?」 無邪気に尋ねる友人に曖昧に微笑んで、一花《いちか)は外を眺めやりました。真っ青に晴れた空、学舎の入り口には、今まさに、桜が満開を迎えていました。 折しも、春風が少女たちの袂をさらいます。吹き込む風は非道にも、淡い花弁を引きちぎる。声なき悲鳴を上げ、わっと舞い込んだ吹雪に、友は思わず顔を背けました。一花は、ただ凛と、立ち尽くしました。 まともに風を受ける少女の白い面を、悲鳴は容赦なく打ち据えます。しかし、その一片はひたりと、やわらかな唇にしがみつく幸運を得ました。 「とてもお優しい方から、お手紙なの」 小さく呟いた言葉は、全て、あえかな花が吸いとって、少女は唇にそっと、白い歯を立てました。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加