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指揮者のプロローグ
これは私の話である。
世界の形は人それぞれという。
私には私だけの。あなたにはあなただけの。誰かには誰かだけの。
世界に存在する人の数だけ異なったそれぞれの世界の形があるのだろう。
私の世界の始めの形は「本」である。
タイトルもない、目次もない。
ページも曖昧、真っ白な紙の束。
それが私の世界であった。
何かを知る度、思う度に私はその本に記してきた。
未だ表紙も完成されていない本であるが、長年連れ添ってきたものである。
そこそこ愛着も生まれてきた。
さて、この本の中には私以外の登場人物はまだいない。理由は簡単。自分以外の世界など、理解することは不可能だからだ。
ちらりと開いた扉から中を覗くことはできるだろう。だが、そこまでだ。全貌を見ることは全開となった扉からでも困難だろう。
理解されないのに何かがいるのは気が滅入る。
よって他の存在「登場人物」を本の外へ追い出しているのだ。
今のところは他の「登場人物」はいらない。
そうだ。私の世界がもっともっと成長し、形を得た頃に招待すればいいのだ。
彼らが喜んでくれるような世界を、今は目指して記していけばいい。
私の手元には数十枚のルーズリーフがまとめられている。いわゆる落書きだ。
私ではない誰かの為の物語。それを集めることが私の楽しみである。
毎日飽きもせず増えつつあるその紙束は、いつかまとめあげられ付録として私の本にくくりつけられるのだろう。
その紙束なのだが。
時に「主人公」という存在が発生する場合がある。そのとき、私は何度も何度も。
それこそ懲りずに何度も、おいまたかいい加減にしろと自分でも言いたくなるほどに「プロローグ」を書き始める。
何かの始まりの前、前戯である。
つまりだ。
今回もまた、懲りずにプロローグが置かれるわけである。
これは私の話である。
全てはいつかそこへ辿り着くであろう、君と出逢うために。
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