物語の始まりに立って

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物語の始まりに立って

ここにはなにもなかった。 大地も、水も、火も、風も、 光も。闇も。 音も 時間も なにもなかった。 他の生き物の気配も、命なき物の気配も、 自分という存在すらなかった。 どちらが上か。どちらが下か。 右? 左? これは前? これは後ろ? ぼとりと一冊の本が落ちてきた。 いや、差し出されたのか、浮かび上がってきたのか。 どれにせよ、その本はすぐ目の前にやってきた。 手を出せばすぐに届く触れることのできるであろう距離。 “この本のページを全て埋め、完成させよ” 声が聞こえた気がする。 “さすれば、如何なる願いも叶えよう” そうか。この紙が全て文字で埋められればよいのだな。 迷わずそれを抱え込んだ。 胸の辺りが痛い気がした。気のせいだ。 ページを埋める方法は知らされなかった。 自分で見つけろと。 声は言った。 “お前に名前と時間を与える” かくてわたしは『かなた』という名と、永遠という地獄を与えられた。
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