Ⅰ 孵化

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Ⅰ 孵化

「痛っ」  女の口から思わず漏れた小さな悲鳴に、(こう)の心臓は縮み上がり、無残に萎えていった。 「あー」  昂の間抜けな声に、相手も不手際に気が付き、力を抜いた。 「駄目だった?」  そう聞かれるのが、情けない。昂は小さく頷き、そろりと体をずらした。 「ごめん、(ほう)」  昂は萌の隣で、膝を抱えて座った。萌は横になったまま、目をパチパチしていたが、しおれてしまった昂を見て、笑い出した。 「そんなに、落ち込まなくてもいいのに」  なぐさめられると、余計に落ちこむ。こういう時、女の方が落ち着いているのは、どういうわけだろう。  今日は年に一度行われる「はなまつり」の日だ。昂が暮らすこの針森の村では、この祭りの日に十六歳の男女が初めて契り、大人になる大切な日だった。この村では男女の経験がない者は、大人と認められない。  針森の者は、「はなまつり」で大人になることを楽しみにし、また緊張もしているのだ。十六歳の初めての者同士、うまくいくとは限らない。  雲に隠れていた月が顔を出した。月明りとほの明るく灯る提灯の明かりが、昂の髪を照らした。 「綺麗」  萌は起き上がり、昂の髪をうっとりと見つめた。淡く金色に光る昂の髪は、光を受けて、それ自体がキラキラ輝いているようだった。  昂は顔を上げ、自分の髪を触る。といっても、短くしているので、自分ではよく見えない。 「なんで俺だけ、こんな色なんだろうな」  針森の村でこんな髪の色をしているのは、自分だけだ。この村で生まれた時からそうなので、村人は誰も気にしていない。  昂自身もそれほど気にしているわけではなかった。大人になれば、もう少し濃くなるかなと思っていたが、どうやらなりそうもないと最近思い至ったくらいだ。昂ほどではないが、髪の色素が薄く、茶色い人もいる。昂はうんと色素が薄いたちなのかもしれない。 「そういうこともあるんじゃない?」  萌はあっさりそう言った。 「西の方は、金色の髪の人も多いって聞いたわよ。針森にいたって、ちっとも不思議じゃないじゃない」  それにしてもキレイ、とそこが重要とばかりにいう。  うっとりと自分を見る萌の肌にも、明かりがキラキラと当り、昂はそっちの方がよっぽど綺麗だと思った。  提灯の明かりが、萌の可愛らしい胸の丸みの上で揺らめいた。チロチロと萌の肌をなめるように照らす明かりを見ているうちに、昂の身体はまた(たかぶ)ってきた。  昂は抱えていた膝を離すと、萌に身体を寄せ、口づけた。引き寄せた萌の身体も熱を帯びているのを感じて、いてもたってもいられなくなった。  体を合わせて、興奮に沈むのに、それほど時間はかからなかった。一瞬、萌の身体に力が入ったが、今度は昂も優しく受け止めることが出来た。  二人は無事に大人になった。
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