40人が本棚に入れています
本棚に追加
昂は暫く冴えない日々を過ごした。
あの日は夕飯も食べに行かず、朝まで眠ってしまった。誰も何も言いに来ず、夜中に部屋に入って来た陽と夕も、こそこそと自分の寝台に入って、すぐに寝息を立てていた。
何となく見捨てられた気分になったが、これが信の言う、甘えているということなんだろうな、とまた落ち込んでしまった。
そんな調子で、皆はあれ以来、昂に何も言ってこないのに、自分で勝手に自己嫌悪に陥っていた。ぐるぐると回る自問自答に、結局いつまでたっても答えは出ない。誰も助けてくれないと思ってしまい、また自己嫌悪に陥る。
キースだけが、都に戻る日昂に耳打ちしてくれた。
「信ってホント怖いよな。無駄に怖い。あんまり気にするな」
はっきり言って、この件に関してキースは部外者だが、それでも昂の心は少し軽くなった。
「うまくいったらしいよ」
昂の隣で、萌は熱くなった体を夜風で冷やしながら、嬉しそうに言った。
「え?」
昂は少しぼんやりしていた。慌てて聞き返す。
「今日はなんだかぼうっとしてるね」
さほど気にしている様子もなく、萌が言った。
「緑と拓だよ。大人になれたって」
はなまつりの時、拓の相手だった緑と萌は仲が良い。
「そうか、よかった」
昂は拓がスープをかき混ぜていた姿を思い出して、心から親友を祝した。
もし、当人同士で埒が明かなければ、年上の人に大人にしてもらうこともある。逃げられた方は、当然格好悪い。
緑が気が短くなくて良かった、と昂は感謝した。
「で、なんでぼうっとしてるの?」
女というのはよく気が付く。そして、ごまかさせてくれない。
「萌はさ……生業決めた?」
仕方なく、昂は萌に話した。
「ああ、それか」
合点したように、萌が笑う。
「わたしは拾い師だよ。母の跡を継いでね」
やっぱりか。しっかりしている萌が、決まっていないなんて、ありえない。
「わたしは針森にいたいからね」
フフフ、と不気味に笑って、昂を見る。
「それで、おじいちゃんみたいに、子どもたちにキノコの見分け方を教えるの。間違った子には、すっごい怖い顔で怒鳴り上げるの」
楽しそうに言う萌に、昂は納得する。確かに、萌には拾い師が似合いそうだ。
「でも、昂って似合いそうな生業がないよね」
突然自分のことを言われて、昂は目を二、三度パチパチ瞬いた。頭の中で、萌が言ったことをもう一度繰り返す。
合うものがない?
「しっくりくるものがないっていうか」
萌は正しい言葉を探すように、視線を彷徨わせている。萌の言葉で自分がしっくりきたことを伝えなければと、昂は考えるより先に口が動いた。
「そう」
答えると、パッと萌がこちらを向いた。
「生業を外に見つけに行くってありかな?」
思いついて言うと、萌は楽しそうに言った。
「いいんじゃない?わくわくするね」
簡単なことであるように、無邪気に言う萌に昂は覆いかぶさった。ぎゅうっと抱きしめる。少し力を緩めて、唇を合わせると、萌はくすぐったそうに言った。
「もう一回する?」
昂はそれには答えずに、萌の可愛らしい乳房に吸い付いた。
最初のコメントを投稿しよう!